実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

西宮市立北六甲台小学校の活動報告/平成23年度1月〜3月
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セールスポイント

○ タブレットPCを使った市内公開授業研究会

5年生の社会科の「くらしと情報」について今年度3回目となる公開授業研究会を行った。タブレットPCを一人1台使用させ、CMを何度も繰り返し流し、CMにおける工夫を探し出す授業を実施した。タブレットPCを活用したことにより児童一人一人が自分のお気に入りのCMの工夫を繰り返し再生したり立ち止まって考えたりながら調べることできた。

○ デジタル・アナログの比較検証授業

新出漢字の習得においてデジタル教科書で習得する授業と黒板のみで習得する授業を比較し、児童の理解にどう違いが出るのかについての検証実験を行った。残念ながら今回は顕著な結果は得られなかったが、今後も同様な検証を行いデジタルとアナログについて検証を続けていきたい。

○ 年間で106事例の実践事例の構築

毎日、クラスで行ってきたデジタル教科書を活用した授業の中から特に事例として記録に残しておきたい106事例を実践事例にまとめることができた。この事例を財産として来年度からの授業に生かしていきたい。

実践経過

1月16日(月) 市内公開授業研究会
5年生 社会科「くらしと情報」公開研究授業
 
 
1月26日(木) 研究発表プロジェクト
研究発表会の授業予定について

 
2月14日(火) 情報推進委員会
2月20日の情報全体会の打ち合わせ
   
2月20日(月) デジタル・アナログ検証研究・情報全体会
豊田准教授による今年度のまとめ・比較実験検証
   
2月22日(水) ホームページ作成研修会
各学年のHPの更新研修実施
   
3月21日(水) 職員会議
研究発表会についての共通理解を図った
 

成果と課題

○ デジタル教科書を使って1年、デジタルとアナログ比較の成果

@ 一人1台のタブレットPCを活用した授業の実践
タブレットPCを活用した授業実践を研究会で実施できたこにより、授業の中でどのようにタブレットPCを活用していくかを全教員で共通理解でき、タブレットPCの使用率が上がった。


A デジタル・アナログでの効果の検証
デジタル教科書と黒板のみでの漢字の学習で、児童の理解にどのような違いが生じるのか検証したところ、デジタルとアナログに大きな差はなく、普段の教師の指導法が最も児童に理解させるのに効果的であるということがわかった。

B 実践事例の構築
1学期からこつこつと実践を積み上げた中から106事例を選び、事例集にまとめた。次年度、子どもの学力向上に更に図っていく財産となった。

C 2回目の児童・教師アンケートの実施
11月に実施した児童・教師アンケートを1月に2回目として
実施した。児童はデジタル教科書で教材等を提示することで児童の興味・関心が高まることがわかり、今後の研究の見通しを立てることができた。

□ 課題

@ デジタル教科書の機能の限界
デジタル教科書は既製のソフトなので、機能に限界があり、
授業中での活用方法が決まってしまう。活用したい場面や活用できる単元が絞られてしまうので、なかなか思うようにデジタル教科書を常時活用しにくいこともわかってきた。

A デジタル教科書の有効活用方法の厳選
デジタル教科書の機能を熟知した上で教師がどのように活用していくのかを考えて授業に臨むことが大切になっている。ただ、デジタル教科書を使用するだけではなく、有効的だったかどうかを振り返ることで、今後の活用に生かしていく必要もある。

 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

○ 来年度に向けて準備が進んでいます
6月22日の研究発表会に向けて少しずつ準備を進めています。教職員だけでなく、地域や保護者の方からも協力を得て、学校環境の整備や学習環境の充実にたくさん支援して頂け、学校・保護者・地域が一体になって取り組めていることをうれしく思います。

 

1年間の実践を終えての感想

○ デジタル教科書を全クラスで使用できる環境の整備
全教室にデジタルTVとパソコンが整備されているので、デジタル教科書を5月に購入してインストールし、すぐに全クラスでデジタル教科書が使用できる環境にすることができた。

○ 授業研究会3回実施(6年国語・算数・5年社会)
デジタル教科書やタブレットPCを活用した授業研究会を3回実施することができた。デジタル教科書を活用した授業作りやデジタル教科書と黒板の併用の仕方、タブレットPCを活用した授業作りなどを共通理解することができた。授業だけでなく他の教員もデジタル教科書を意欲的に活用することで日々の授業が充実した。

○ 全クラスでデジタル教科書使用
5月にデジタル教科書を整備してから1か月間で全クラス、デジタル教科書を活用した授業を実施することができた。

○ チャレンジサポーターと共に、デジタル教科書を使った授業の推進・実践例集作成
市から派遣されているチャレンジサポーターの方に協力して頂き、デジタル教科書を活用した授業の実践事例をまとめ、1年間で106事例を取り出し、実践事例集としてまとめることができた。

○ 活用一覧(1学期分)と振り返り一覧(1学期分)の作成
デジタル教科書の活用法について各学年、教科ごとに一覧にまとめた。また、その効果についても振り返り一覧としてまとめることができた。

○ 各種ICT機器の操作講習会の開催
デジタル教科書はもちろんのこと、デジタルカメラやプロジェクターなど、各種ICT機器の操作について企業担当者に来校してもらい校内講習会を開催した。教職員のICT機器に対する意欲と操作能力の向上に繋げることができた。

○ ICT活用先進校等視察
パナソニック教育財団の研究指定校はもちろん、それ以外にもICT機器について研究されている先進校にたくさん足を運び、視察することができた。視察で学びとったことを全校研究会の場で共有することができた。

○ ホームページ更新研修
ホームページに全学年のページを作り、各学年でホームページを更新する研修を行い、行事や取り組みをすぐに更新し発信することができた。

 

次年度への思い

6月22日に研究発表会が控えており、今年度末から全教員で一丸となって発表会への準備に取り組んできた。これまでの成果が発表できるよう次年度からもがんばっていきたい。特に、今年度取り組んできた「デジタル教科書の活用方法」や「基礎学力の定着を図る取り組み」などを全国から来て頂いた先生方に紹介し、デジタル教科書研究の先進校として多くの実践を他校へ発信し、異なった視点からの意見を頂くことで本校の研究を深化させることを目標にがんばっていきたいと考えます。
 

解説と講評

コメント:和歌山大学 准教授 豊田充崇 先生

■ 3学期の取り組みから
(「基礎学力向上のツール」から「学びを深めるツール」まで)

 まず北六甲台小学校の研究テーマを改めて見直すと「学びを深める子どもの育成〜デジタル教科書の活用で基礎学力の確かな定着を図る〜」とあります。つまり、デジタル教科書の活用で基礎学力の定着を促し、その上で、学びを深めていくという長期的な検証を目的としています。この3学期は、その2つの段階が顕著に現れたといえます。
 まず、デジタル教科書の学習効果を具体的に把握するために、基礎学力の中でも特に「新出漢字指導」の場面に焦点を当てて検証をおこないました。詳細は省略しますが、漢字の書き取りの定着率の伸びをデジタル教科書のある・なしで比較するといった取り組みです。
 結果を述べると、「漢字を覚える」というシンプルな知識習得場面では「その学級に馴染んだ従来の指導法のほうが定着しやすい」ということがいえました。デジタル教科書の有無による差ではなく、その学級の実態に適応した指導方法かどうかの問題だということです。参観された他の先生方も、デジタル教科書の使用場面ではなくて、漢字指導の手順や解説・書き取りの方法等に注目が集まっていました。デジタル教科書活用の効果の検証を目的としたはずが、結局は、やはり授業研究に落ち着いたともいえます。
 デジタル教科書は有効か?ではなくて、デジタル教科書を有効に活かすための授業設計や提示方法を検討することのほうが意義深いという、考えてみれば当然のことに気づかされた次第です。このような指導方法の比較検証は次年度も取り組みたいと思います。
 さて、研究テーマの「学びを深める」に関しては、児童一人一台体制のタブレットPC利用の授業によって、それに迫ったように思います。一例を取り上げると、1月16日に実施された社会科の授業が該当します。この授業では、各種動画コンテンツを統合した自作の教材が使われており、いわゆる「児童用デジタル教科書」を活用したのと同様の意味合いを持ちます。個々の児童の興味関心や各々の学習ペースに対応して考えを深めたいという授業者の意図を反映させ、一人一台体制の元で実施されたチャレンジングな授業でした。下記の写真にあるように、グループ内での相互の意見交流を重視しているのですが、昨年4月の「教育の情報化ビジョン」(文科省)で示された『協働学習』としての例示が具現化したようなシーンであると感じました。


▲タブレットPCのコンテンツを視聴して個人で考えたことをグループで共有。さらに、 意見を集約して、全体発表をおこなっていた。

■ 「教師のデジタル教科書活用」を発端として、
  児童らの情報活用場面も充実

 不意に訪問した際ですが、休憩時間の廊下を兼ねたオープンスペースで、写真のようなタブレットPCを利用して社会科の情報検索をしている児童らが集まっていました。インターネットで調べたことを発表できるように、簡単なスライドソフトでまとめをしている児童もいました。児童らの「調べて・まとめ・伝える」ためのツールとして、完全に位置づいている様子が伺えました。

▲「学習ツール」の1つとしてのタブレットPC
 研究助成のテーマには直接関係していないようにも思われますが、こういった活動に発展できた要因は、やはり教師自身がICT活用授業を実践してきた自信の積み重ねによるところが大きいと思います。もちろん、教科指導にデジタル教科書を活用することで、効率的な指導ができるようになったり、児童らの関心や学習意欲が高まったために、児童らの主体的な学習活動を重視するようになったのかもしれません。(もちろん、元々分散配置可能なタブレットPCがあったり、全教室に大型ディスプレイが設置されているという環境的な要因もあると思います。)
 ただ、こういった状況が「日常化」しており、児童らが学習ツールとして自然に活用されているといった点で、国内の「フューチャースクール事業(学びのイノベーション事業)」に匹敵するレベルにあるようにも感じます。しかも、デジタル教科書活用を発端とした学校教育の情報化の発展系として、短期間且つ段階的に取り組まれた好事例となっているのではないでしょうか。

■ 2012年度に向けての課題と展望

 年度末に児童向けに実施したデジタル教科書の使用感のアンケート結果で1つ気になる点があります。本来、児童らに支持されるはずのデジタル教科書の使用に関して、少し冷ややかな意見が予想に反して多かったことです。もちろん大部分の児童は、デジタル教科書の有効性を認めているものの、「別に無くてもかまわない」、「使わなくてもいい場面もあった」と感じている児童も予想以上に多かったのです。
 その詳しい理由は分かりません。もしかしたら、活用事例の収集を急ぐあまりに、肝心の目の前の児童に目を向ける、本来の授業改善に注力するといったポイントが欠けていたのではないかといった自己反省的な意見も先生方からは出されました。機器のトラブルが生じて先生方が児童らの前で悩んだり右往左往している場面、画面を見つめたまま児童らとの距離を保っていたり、デジタル教科書の教材研究に時間を割かれて児童らのノートへのコメントが減ってしまったり、そういったところを敏感に感じ取ったのかもしれません。
 ただ、先生方の実感として「やはりデジタル教科書は優れた教材提示手段である」という共通認識はありました。結果は真摯に受け止め、そう考えている児童らがいるなら、そうならない配慮をした上でもっと有効的な活用方法を考えようという前向きなアプローチがなされたのが印象的でした。
 デジタル教科書という共通の教材を使うことで、各先生方の指導方法の相違点がはっきりとしてきます。今回は、漢字指導においてもはっきりとその違いが見えてきました。
 2012年度は、デジタル教科書の活用研究から一歩進め、デジタル教科書を共通利用教材とした授業研究へシフトできるような取り組みを考えていきたいと思います。
 
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