実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

西宮市立北六甲台小学校の活動報告/平成24年度1月〜3月
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セールスポイント

○ 公開授業研究会の実施

1月21日(月)にICT研究の公開研究会を実施した。5年1組で算数の「角柱と円柱」を行い、佐賀県から1名、市内から1名の参加者があった。デジタル教科書を用いて、数学的な思考を養う授業作りを目指した授業を行い、本校のアドバイザーでもある和歌山大学豊田充崇准教授から指導助言を頂き、今後の研究に向けての取り組みについてもアドバイスを頂くことができた。

○ 情報研究全体会の実施

2月13日(水)に情報教育研究全体会を行い、1月と同様に和歌山大学の豊田准教授から指導助言を頂き、この2年間の特別研究指定校としての総括を行った。体験型の講演会で、豊田准教授に6年生社会の歴史についてタブレットPCでの模擬授業をして頂き、今後の研究に向けての取り組みについてもアドバイスを頂くことができた。

○ 研究全体会の実施

3月21日(木)に研究全体会を行い、今年度のまとめと来年度の一般研究助成校としての取り組みについて説明を行った。

実践経過

1月21日(月) 公開研究授業の実施
      
2月13日(水) 情報研究全体会の実施
      
3月21日(水)  研究全体会の実施
 

成果と課題

<成果>

デジタル教科書を中心に研究を行ってきた2年間のまとめとして、5年生の算数で授業を行った。「角柱と円柱」の授業を行い、デジタル教科書のアニメーション機能を用いての角柱と円柱の見分ける授業を行った。デジタル教科書の算数のアニメーション機能が図形の単元にはとても有効であると共通理解できた。



情報研究全体会では豊田准教授(和歌山大学)に2年間のまとめとして、デジタル教科書を児童が扱う実践や他のICT機器を活用した授業事例について講話して頂いた。また、タブレットPCを扱った模擬授業を行うことで、タブレットPCを使った協同学習のあり方を体験しながら模索することができた。



<課題> 

デジタル教科書を教師が活用していくことは、どのクラスでも日常的に行えているが、どのようにデジタル教科書を児童に対して活用していくのかが今後の課題であり、また、デジタル教科書の活用を中心にした授業づくりではなく、授業研究の中にICT機器をどのように有効的に取り入れていくかという、ICT機器の使用目的や意図、活用方法を明確にして、その評価を教師間で共通理解していくこと必要がある。

 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

デジタル教科書以外のICT機器を活用した授業実践が増えた。研究発表会まではデジタル教科書をどのように活用していくかに多くの力を注いできたが、研究発表会も終わり、少し余裕ができ、多くの教師がデジタル教科書以外のICT機器を活用した授業実践を行うことができた。1年生では、図画工作科でデジタルカメラを用いて、児童の描いた絵の上に動かしたいものを少しずつ動かしては写真に撮るという作業を繰り返して、その写真をスライドショーで映すことでアニメーションをつくる授業に取り組んだ。2年生ではタブレットPCの「おえかき機能」を使って生活科の「思い出アルバム」の表紙を作った。3年生ではタブレットPCの「音楽機能」で自分の曲を作る取り組みを行った。4年生では、1年間の思い出を写真に書き込み、思い出スライドを作ったり、デジタルカメラを用いて2分の1成人式の将来の夢スピーチを撮ったりする活動を行った。5年生では、来年度のクラブ活動のPRスライドを作成し、来年度のクラブ入会集会のクラブ紹介の説明用スライドを作成した。
 

2年間の実践を終えての感想

○ 全教員でICT研究の取り組めたこと

2年前に始まったICT研究であるが、全教員がICT機器を使った授業に積極的に取り組み、今では日常的に活用できるまでになった。このように短期間でスピーディーに発展できたのも全教員の前向きな協力があり、担当者としてただただ感謝するばかりである。

○ 研究発表会での授業公開

研究発表会では19クラスで授業を公開することができた。これは、デジタル教科書が全クラスで使える学習環境にあったことや全クラスにPCと大型デジタルテレビが常設されていることもあるが、教師も2年間継続してデジタル教科書の活用したことにより、ICT機器を取り入れた授業を行うことができるようになったからである。

○ 実践事例事典の作成

実践事例を180事例も集約することができ、2年間の実践を構築することができた。これは、日々の取り組みの積み上げであり、本校の大きな財産となった。

○ ICT機器による効果の評価

実践を多く積み上げることはできたが、1つ1つの事例の中でのICT機器の効果を検証することまではできなかった。次年度からは、「何のために」「どのように」ICT機器を活用していくのかを授業の中で明確にし、その効果を検証し評価していくことが必要である。

 

次年度以降、今回の成果をどのように展開するのか

○ 本校の実践を広めていく

2年間の特別研究指定校としての本校の実践を他校に広めていくことが今後の本校の務めである。また、来年度は本校の所属する北地区の5校で一般研究助成校に指定して頂いたので、北地区5校が一体となりICT研究を推進していく。そのためには、本校が中心となって他校と連携した取り組みや共同研究授業を実施したり、お互いが日常のICT機器の活用を交流したりしていくことが必要となってくる。今後は、5校での日常的なICT機器活用と学力向上へつながる授業づくりが目標となる。

○ ICT機器活用にカリキュラムと評価規準作り

本校のさらなるICT活用の推進としては、各学年でのICT機器活用の段階を経たカリキュラムを構築し、実践していくことが課題である。各学年の実態に応じたICT機器操作能力を育成するカリキュラムや情報モラルへの取り組みを強化していく。また、カリキュラムに沿った情報活用能力の評価項目を作成し、評価規準を明確に作っていくことが必要であり、そのカリキュラムと評価に基づいた授業づくりを目指したい。

 

解説と講評

コメント:和歌山大学 准教授 豊田充崇 先生

 ◆2年間の特別研究指定を終えて

 北六甲台小学校は、研究2年目の平成24年6月に公開研究会を終えましたが、その後も研究の手を緩めることなく、最後までICTを効果的に活用した授業実践の研究に取り組みました。6月の研究会は集大成としてというよりは、多くの方に授業を参観頂いて、課題を明確にして以後に活かすというスタンスでしたが、その以後もうまく機能したといえるでしょう。晩秋の研究会で燃え尽きて、その後は惰性になってしまうケースもある中、早期に終えた研究会後は、「日常の授業」を想定して、地に足の着いた授業研究が展開できたといえます。
 さて、北六甲台小学校における総括的なコメントは前回におこなっていますので、ここでは敢えて「ICT活用研究がうまくいった学校の共通項」について述べておきたいと思います。
 私自身、年間を通じて数多くの学校を訪問させて頂いていますが、やはりICT活用授業がうまくいくところとそうでないところがあります。もちろん普通教室へのICT整備状況が大きく影響しますが、成功している学校(ICT活用による効果を引き出せる学校)の共通項を見出すと、それは至ってシンプルです。
 廊下や教室の掲示物の工夫、ロッカーの整頓、校舎内の各教室・トイレの掃除が行き届いている、教材・教具がきちんと見えるところに置いてあり、いつも使える状態になっている等、授業前に既にわかることがたくさんあります。また、授業中では、導入時の工夫が毎回あり、板書とノート指導の一体化や提示教材の工夫等細かい配慮や計画性の元に実施されていることが挙げられます。児童らはこれらに呼応するかのように、先生の指示をしっかり守って行動し、授業規律が保たれています。
 そんな当たり前のことを・・・と思われるかもしれませんが、それを年間通じて絶えず維持していくことは、先生方の日々の積み重ねに拠るところが大きいと思います。また、長期に渡って受け継がれてきた学校の雰囲気にも支えられるかと思います。
 こういった状況の下で、北六甲台小学校では、ICTは新しい教具として教室に常備され、いつも授業の要所で活用するツールとして好意的に受け取られていったのだと考えられます。「ICTはツールであり、その活用自体が目的化してはいけない」とはよく言われる言葉ですが、上記のような学習環境や雰囲気の中でこそ、それが活かされることをこの2年間を通じて感じることができたと思います。

欲張りな課題
 初年度から、北六甲台小学校は、当初の研究計画を大きく上回る成果を挙げることができました。研究タイトルにある「デジタル教科書の活用」はもとより、自作デジタル教材から、ネット上のデジタルコンテンツ、情報活用の実践力向上を目指した取り組みから、情報モラルの育成まで、教育の情報化に関する多くの分野を横断的に研究し成果を挙げてきたといえます。
 よって、計画以上の成果を挙げたという前提のもと、さらに欲張りな「課題」について考えてみたいと思います。
 まず、学校目標として掲げられた「きく」という点に関して、児童らは「先生の声(解説・発問・指示等)を聴くこと」は完全に達成されています。そして、クラスメイトの声を聴くことも、意識してできるようになってきたといえます。ただやはり、自分の意見や発表を相手に聴かせるためには、どういった伝え方をすればいいかといったところまでを意識できている児童はまだ少数です。受け手の状況を踏まえて伝え方の工夫することは、大人でも難しいことですので、これは今後も研究に値する目標設定であるといえます。
 さらに欲をいうと、普段はあまり発言・発表しない児童の内なる声(意見や考え方)を聴く(引き出す)ことができるような授業の工夫が求められているといえるでしょう。これは、一斉指導体制が中心の授業下ではなかなか実現が難しく、協働的な学びの場面比率を高めていく必要があります。
 もちろん、北六甲台小学校の先生方は、子ども同士が学び合う場面を設定する授業実践の研究もされています。ただ、そのバランス比率がまだ「黄金比」にまで到達できていないように感じました。「一斉指導の中に、一部グループ学習場面を取り入れる」という後付ではなくて、「グループ内でひとり一人が自分の考え方を述べて検討するために、一斉指導で共通認識を得ておく」もしくは「課題解決場面を先に設定し、児童らの意見を集約して、最後の一斉指導で学習のまとめを導き出す」といった授業展開の工夫にまで転換し、学習課題に適した多くバリエーションある授業実践のモデルを獲得したいものです。
 また、家庭学習(宿題)をしっかりとおこなってくる児童が多いように感じましたが、宿題でできるところと、学校の授業中におこなう学習内容の切り分けも課題の1つだと思います。「ここは宿題でやってきて、こっちを検討する時間を授業中にもっと割ければ」と思う場面もありました。家庭学習と授業中との連携についても、短い授業時間の制限を緩和する1つの研究課題であると思います(期待値を込めて、欲張りなことを述べさせて頂きました)。

最後に
 北六甲台小学校は、特別研究指定校として全職員・学校を挙げて取り組む好事例を残しました。さらにそれを踏まえて、平成25年度は研究成果の「普及」を目指し、近隣の5学校と連携したICT活用授業の実践研究に取り組むため、新たに研究助成を獲得しました。元特別研究指定校が、新規の周辺校を巻き込み、「普及」という命題を背負ってどういった展開を見せるのかが注目されます。幸いにも、私自身が継続的に関わっていくこととなりましたので、「3年目の研究校」の様子も折を見てレポートしたいと思います。

 
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