◆2年間の特別研究指定を終えて
北六甲台小学校は、研究2年目の平成24年6月に公開研究会を終えましたが、その後も研究の手を緩めることなく、最後までICTを効果的に活用した授業実践の研究に取り組みました。6月の研究会は集大成としてというよりは、多くの方に授業を参観頂いて、課題を明確にして以後に活かすというスタンスでしたが、その以後もうまく機能したといえるでしょう。晩秋の研究会で燃え尽きて、その後は惰性になってしまうケースもある中、早期に終えた研究会後は、「日常の授業」を想定して、地に足の着いた授業研究が展開できたといえます。
さて、北六甲台小学校における総括的なコメントは前回におこなっていますので、ここでは敢えて「ICT活用研究がうまくいった学校の共通項」について述べておきたいと思います。
私自身、年間を通じて数多くの学校を訪問させて頂いていますが、やはりICT活用授業がうまくいくところとそうでないところがあります。もちろん普通教室へのICT整備状況が大きく影響しますが、成功している学校(ICT活用による効果を引き出せる学校)の共通項を見出すと、それは至ってシンプルです。
廊下や教室の掲示物の工夫、ロッカーの整頓、校舎内の各教室・トイレの掃除が行き届いている、教材・教具がきちんと見えるところに置いてあり、いつも使える状態になっている等、授業前に既にわかることがたくさんあります。また、授業中では、導入時の工夫が毎回あり、板書とノート指導の一体化や提示教材の工夫等細かい配慮や計画性の元に実施されていることが挙げられます。児童らはこれらに呼応するかのように、先生の指示をしっかり守って行動し、授業規律が保たれています。
そんな当たり前のことを・・・と思われるかもしれませんが、それを年間通じて絶えず維持していくことは、先生方の日々の積み重ねに拠るところが大きいと思います。また、長期に渡って受け継がれてきた学校の雰囲気にも支えられるかと思います。
こういった状況の下で、北六甲台小学校では、ICTは新しい教具として教室に常備され、いつも授業の要所で活用するツールとして好意的に受け取られていったのだと考えられます。「ICTはツールであり、その活用自体が目的化してはいけない」とはよく言われる言葉ですが、上記のような学習環境や雰囲気の中でこそ、それが活かされることをこの2年間を通じて感じることができたと思います。
欲張りな課題
初年度から、北六甲台小学校は、当初の研究計画を大きく上回る成果を挙げることができました。研究タイトルにある「デジタル教科書の活用」はもとより、自作デジタル教材から、ネット上のデジタルコンテンツ、情報活用の実践力向上を目指した取り組みから、情報モラルの育成まで、教育の情報化に関する多くの分野を横断的に研究し成果を挙げてきたといえます。
よって、計画以上の成果を挙げたという前提のもと、さらに欲張りな「課題」について考えてみたいと思います。
まず、学校目標として掲げられた「きく」という点に関して、児童らは「先生の声(解説・発問・指示等)を聴くこと」は完全に達成されています。そして、クラスメイトの声を聴くことも、意識してできるようになってきたといえます。ただやはり、自分の意見や発表を相手に聴かせるためには、どういった伝え方をすればいいかといったところまでを意識できている児童はまだ少数です。受け手の状況を踏まえて伝え方の工夫することは、大人でも難しいことですので、これは今後も研究に値する目標設定であるといえます。
さらに欲をいうと、普段はあまり発言・発表しない児童の内なる声(意見や考え方)を聴く(引き出す)ことができるような授業の工夫が求められているといえるでしょう。これは、一斉指導体制が中心の授業下ではなかなか実現が難しく、協働的な学びの場面比率を高めていく必要があります。
もちろん、北六甲台小学校の先生方は、子ども同士が学び合う場面を設定する授業実践の研究もされています。ただ、そのバランス比率がまだ「黄金比」にまで到達できていないように感じました。「一斉指導の中に、一部グループ学習場面を取り入れる」という後付ではなくて、「グループ内でひとり一人が自分の考え方を述べて検討するために、一斉指導で共通認識を得ておく」もしくは「課題解決場面を先に設定し、児童らの意見を集約して、最後の一斉指導で学習のまとめを導き出す」といった授業展開の工夫にまで転換し、学習課題に適した多くバリエーションある授業実践のモデルを獲得したいものです。
また、家庭学習(宿題)をしっかりとおこなってくる児童が多いように感じましたが、宿題でできるところと、学校の授業中におこなう学習内容の切り分けも課題の1つだと思います。「ここは宿題でやってきて、こっちを検討する時間を授業中にもっと割ければ」と思う場面もありました。家庭学習と授業中との連携についても、短い授業時間の制限を緩和する1つの研究課題であると思います(期待値を込めて、欲張りなことを述べさせて頂きました)。
最後に
北六甲台小学校は、特別研究指定校として全職員・学校を挙げて取り組む好事例を残しました。さらにそれを踏まえて、平成25年度は研究成果の「普及」を目指し、近隣の5学校と連携したICT活用授業の実践研究に取り組むため、新たに研究助成を獲得しました。元特別研究指定校が、新規の周辺校を巻き込み、「普及」という命題を背負ってどういった展開を見せるのかが注目されます。幸いにも、私自身が継続的に関わっていくこととなりましたので、「3年目の研究校」の様子も折を見てレポートしたいと思います。