実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

鹿児島市立山下小学校の活動報告/平成23年度8月〜12月
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セールスポイント

◎ 「思考の錬磨」の過程を可視化するための授業設計(多様なICT活用)に挑戦: 事前研究授業17本

これまでの研究と実践を基に成果と課題を整理して,思考の錬磨の過程を可視化するために,どのようなICT活用ができるのか考察した。そこで,研究班ごとにこれまでの授業で実践したICT活用の事例を発表したり,実際にICTを活用した模擬授業をしたりして研修を深めた。この研修を通して,思考を可視化するためにどのような機能が必要か,あるいは効果的かという視点から活用できICTを検討し,授業設計の段階で位置付けることができるようにした。
また,研究テーマに迫るためにICG(ICT Consulting Group)が授業づくりにおけるICT活用の支援を行い,10月から11月初旬まで17本の研究授業と検証を展開し,11月の公開研究会につなぐことができるようにした。

◎「公開研究会の開催」:参加者人数720名

公益財団法人パナソニック教育財団の特別研究指定校として,2か年目の研究内容と実践について,全国から約720名の参加者のもと,公開研究会を開催した。7教科・領域(国語・社会・算数・理科・体育・道徳・特別支援教育)において17本の公開授業とその授業研究会を実施した。また,パナソニック株式会社CSR・社会文化グループマネージャ 小川理子先生の御講演,及び宮崎大学教授 新地辰朗先生,パナソニック教育財団 則常祐史様の御支援をいただき「思考の可視化を目的としたICT活用」をテーマにパネルディスカッションを行った。

実践経過

8月

「ICTを活用した『思考の錬磨』の過程の可視化」
授業プラン研修の実施

「思考の錬磨」の過程を可視化するためにICTを効果的に活用して,思考の可視化の取組によって得られた子どもの思考を蓄積し,形成的な評価ができるようにすることで,どのように思考を高めることができるのか夏季休業中に全体研修を行った。具体的には,ICT活用事例やICT機器活用の説明書,共通の授業プランシートを使用することで,思考を可視化する目的やどのようにICTを活用するのかなど,思考をどのように高めるのかを明確にした授業設計ができるようにした。

9月〜10月

「思考の錬磨」の過程の可視化とその評価方法の研究:検証授業の実施

公開研究会で行う予定の17本の公開授業の全てにおいて,作成した学習指導案に沿って,隣接の学級等で事前授業を行った。ここでは,思考を可視化するためにICTを活用することでどのような効果があるのか,子どもたちの思考の変容を見取ったり,活用する場面が的確であるかを検証したりした。そして,教師相互に授業を参観したり,幾度も授業のシミュレーションをしたりすることで,子どもたちの思考の変容を想定し,授業のねらいを達成できるようになってきた。

ICT機器の確認・ICT活用実践事例集(補訂版)の作成

これまでに導入したICT機器の中には,不具合が生じるものが出てきていた。そこで,ICGを中心に各学級に整備してある電子黒板,パソコン,周辺機器等の動作チェックを行い,公開研究会に備えた。

また,昨年度作成した「ICT活用実践事例集」を補訂し,平成24年度版を作成した。これまでの研究内容や実践事例を中心にまとめ,公開研究会に来られる方々に,これからの授業実践等で活用いただけるようにまとめた。

11月

平成24年度公開研究会の開催

9日(金),公開研究会を開催した。8時20分からの受付,50分からの公開授業であったが,7時40分の子どもたちの朝の自主清掃の時間から参観されている先生方も数多く,身の引き締まる一日の始まりであった。

公開授業では,国語科単元「音読劇をしよう」(2年)では,登場人物の気持ちを考え,話し合った後に,音読の工夫の仕方を確かめるものであった。その際,子どもたちには,初めて音読した時のVTRを試聴することで,本時の学習と比較しながら,読みの工夫を考えることができた。

社会科では,単元「工業生産と貿易」(5年)の学習において,輸出入額の変化が日本や外国にどのような影響を及ぼすのかという課題で,これまでの学習や参考資料を基に個々に考えをまとめた。その後,手書き学習端末(タブレット型PC)に班ごとにまとめ,双方向性のシステムで,リアルタイムで相互の考えを比較したり,関係付けたりしながら課題を解決し,本時の学習をまとめることができた。

算数科では,単元「反比例」(6年)の導入において,子どもたちは個々に学習用ゲーム機端末の手書き機能を活用し,2つの数量関係の表に矢印を書き込み,電子黒板で友達の考えと比較し,関係付けて話し合うことで,本時の学習課題を解決し,まとめを焦点化することができた。

理科では,単元「振り子のきまりを調べよう」(5年)の学習において,おもりの重さと振り子の運動の変化から,その規則性を見つける学習をした。ここでは,各班の実験結果をデジタルペンで一枚のグラフシートに書き込むことで,差異があるかを確かめた。各班の実験結果の差異がないことから,おもりの重さによって一往復する時間に変化を与えることはないことを確かめることができた。

体育科では,単元「跳び箱運動」(6年)において,映像遅延装置を使い自分の動きを確かめたり,友達と話し合い,動きのコツをアドバイスし合ったりしながら学習活動を進めた。また,録画した動きと模範となるデジタルコンテンツを比較することで,脚の伸びや踏み切りの仕方などを確かめ,自分の動きに生かすことができた。

また,パナソニック株式会社CSR・社会文化グループマネージャ小川理子先生に「これからのグローバル時代に必要な力」と題した御講演をいただいた。

12月

研究の成果と課題をもとに,来年度の研究テーマの検討

公開研究会を終え,これまでの研究の成果と課題を整理し,来年度の研究の方向性について話し合いを行った。研究課題として掲げた「思考の錬磨」について,その過程の可視化を進めてきたが,思考の深化・拡充まで至ったのかという課題が残った。そこで,個別的思考から「集団的思考活動での交流の充実」,その後の「個別的思考の再構築」の明確化が必要でないかという話し合いに展開してきた。

成果と課題

2年間の研究と実践の成果を公開授業やパネルディスカッションという形で発表することができた。これまでに「思考の錬磨」という大きく,難しいテーマで取り組んできたが,子どもたちや本校職員の姿の変容から大きな成果があったのではないかと思う。しかし,思考の深化・拡充といった視点では,子どもたちの思考をさらに高める手段として,子どもたちの学び合いや思考の再構築場面で,どのようにICT活用を図るかという課題も見えてきた。 公開参加者に対して行ったアンケートや職員の意見として,以下のような声が聞かれた。

  • ICTを効果的に活用することによって,表現力が高まっていくことが分かりました。(子どもたちの書画カメラや電子黒板の積極的な活用)
  • 体育の跳び箱運動で,自分の動き(録画した動き)とデジタルコンテンツ(模範的動き)を比較しながら話し合うICT活用はとても参考になりました。
  • 学習のねらいを達成させるために,それぞれのICT機器が効果的に活用されているところが素晴らしかった。

これらの主として肯定的に評価する意見がある反面,以下のような声も聞かれた。

  • 教科書や資料の提示にはとても効果的であるが,子どもの一文程度のカードをわざわざ提示する必要があるのだろうか。授業のねらいや意図を捉える必要がある。
  • ICTにしかできない活用の研究をお願いしたい。(より良い効果的な活用)
  • ICT活用で様々な思考・表現活動が行われていたが,習熟度を考えた場合,理解の遅い子どもはかえって混乱するのではないか。それぞれの子どもへの配慮が必要になってくる。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

万全のつもりでも…。

公開研究会という形で,数多くの方々を本校に迎え入れるということは誇らしく,またたいへんなことであることを意識しながら,前日まで万全を期すように努めた。特にICT活用推進校としては,機器のトラブルがあってはならないと時間ぎりぎりまでチェック入念に行った。しかし,全体会でのプレゼンテーションがなかなか映し出されない。またパネルディスカッションでのプレゼンテーションは,切替機によって画面サイズが変わってしまうというトラブルも起きてしまった。準備万端にするためには,様々な状況を予測し,その対応策をも念頭に入れて準備していくことの大切さを痛感した。

公開研究会は「子どもの姿で」

この公開研究会を子どもたち,保護者,地域の方々も本校の恒例行事,大きなイベントとして捉えている。本校は昭和59年から,毎年公開研究を行っているが,職員は発表論文やプレゼンテーション,授業の準備,環境整備等を計画的に進めていく。子どもたちは,いつもと特に変わった様子もなく淡々と授業を進めていく。しかし,職員の姿や熱意が伝わるのか,公開研究会が近づくにつれ,時間を守った集合や大きな声でのあいさつ,はきはきとした発表がさらに高まってくる。職員から強制されるものでもなく,この公開研究会という時や場が,さらに学級集団の高まりをも支え育ててくれている。

解説と講評

コメント:宮崎大学 教授 新地辰朗 先生

 2年目の中盤となるこの期間で,ICT活用により“可視化された思考”を,授業展開に生かす段階に前進されたように感じています。この段階では,“教師が期待する思考”と“予想される児童の思考”をふまえた,授業構想力及び授業実践力が高いレベルで求められます。鹿児島県総合教育センターや鹿児島市教育委員会と連携した質の高い授業研究の積み重ねにより,教師の専門的力量としてのICT活用に到達していると思われます。

 特別研究指定校に求められる研究成果の普及という点では,11月9日の研究公開の際に,1年間の研究結果を集約した「自ら考え判断し,表現できる子どもを育てる学習指導の開発U(全180ページ)」とあわせて配付された「ICT活用実践事例集(全60ページ)」が高く評価できます。この事例集では,思考の段階性や思考活動の内容をわかりやすく整理した上で,思考の練磨を目的としたICT活用が教科・領域ごとに説明されており,山下小学校の取組が他の学校の教師のヒントとなるよう工夫されています。

 今後,思考練磨のプロセスのICT活用による表出・記録により,授業がどのように改善され,また児童が変容したのかを振り返ることができるなら,さらに実りある研究となるように思えます。評価軸を「教師の専門的力量」や「学力(21世紀型学力,情報活用能力を含む)」とすることで,学校教育の質の向上に資するICT活用の実践例が見えてくると期待しています。

 今年の元旦,初日の出の直前。山下小学校の子どもたち,保護者のみなさん,そして先生方が日ごろから登っておられる城山の頂上で,偶然・ばったり,山下紀弘校長先生とお会いできました。山下小学校とのありがたいご縁を感じた次第です。研究指定期間は終盤に入りますが,山下小学校の先生方,子どもたちと,充実した時間を楽しみたいと考えています。

 
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