実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

鹿児島市立山下小学校の活動報告/平成23年度1月〜3月
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セールスポイント

  • これまで2か年の研究実践をもとに,平成25年度の研究に向けてスタート
昨年11月の公開研究会で2か年の研究実践を授業や実践事例集,研究誌で発表し,多くの先生方に御指導,御示唆をいただき,改めて成果や課題を整理した。また,本校職員の反省からも,本年度は「思考の錬磨」の過程の可視化とその評価方法の研究を進めてきたが,さらに集団的思考の錬磨の場面を一層活性化し,より確かな学力を身に付けさせたいという声が高まってきた。 そこで,一単位時間の「思考活動」を充実させるために,子どもたちが思考したことをICTを活用してまとめたり,分かりやすく表出したりして,考えを交流させながら「思考活動」に取り組む研究実践を進めることにした。
  • 7教科・領域の研究授業を通して研究の方向性を検証
全体での研究の方向性としては,本年度の研究テーマ「自ら考え判断し,表現できる子どもを育てる学習指導の開発」を継続し,単元を通して「思考活動」を充実させるための単元展開や一単位時間のICTを活用した授業を構想すること,また,ICTを活用して思考を整理・蓄積し,さらに評価資料をもとに,振り返ることで,個に応じた指導や指導方法の改善を図ることとした。
そして,2月20日には,国語,社会,算数,理科,道徳,体育,特別支援教育の7教科・領域で研究授業を行い,県総合教育センターの先生方に御指導をいただいた。

実践経過

 1月は,これまでの研究を振り返るとともに,先行論や他校の研究実践を紐解きながら,次年度の研究の方向性について研究部会を隔週おきに開いた。この会では,研究主任を中心に研究の柱や内容,方法の素案を提示しながら班長会を行った。また,各教科・領域ごとにそれぞれの特質を踏まえ,2月の研究授業の構想や指導案,評価資料について毎週班会を開き研究を深めた。

 2月に入ると,全体論文及び各教科・領域の研究の方向性を検証するための研究授業の準備が中心となった。ここでは,デジタルペン,ゲーム機端末,電子模造紙,書画カメラ等をどのような学習内容や場面で効果的な活用ができるのかという視点で,ICG(ICT Consulting Group)も授業の構築に加わった。今回は特に,学習課題に対して思考したことを協働的思考の場面において,子どもたち一人一人の思考と学び合いによる思考活動をICTがどのように,より効果的につなぐのかということを大きな課題とした。これまでも,実証してきたことであるが,多様な考えを比較したり,分類・整理したりするなど,子どもたちが思考の過程を確かめ,自分の考えをより確かなものにすることを大きな目的とした。

 3月には,この一年間の研究実践のまとめの一つとして,NRT(全国標準学力検査)の結果を学校全体,学年,教科における数値結果や子どもたちの誤答傾向,学習指導方法等の研修を行った。本研究の取組による成果とは断言できないが,子どもたちの学力は,本研究に取り組む前よりも高まってきていることを確かめることができた。

成果と課題

  • 検証授業の実施
自分の考えをゲーム端末で表出

学年度末の慌ただしい時であったが,研修係,各教科・領域の班長,ICGを中心に研究員全員で,来年度の研究に向けて研究授業を通した検証を行うことはたいへん意義深いことであった。授業の内容や展開方法,ICT活用においては課題もあったが,授業を提供し,授業研究を行い,指導主事の先生方に御指導いただいたことは,大きな成果であった。また,改善策等も少しずつ明らかになり,平成25年度の研究への大きな手掛かりとなった。特に子どもたちの思考活動を整理,蓄積するICT活用として,よりよい学び合いだけでなく,学びの高まりの実感であったり,次時の学習への意欲付けにつながったりすることも確認できた。

  • 一単位時間における学び合いの充実
自分の考えを電子黒板を使って説明
よりよい学び合い,協働解決の活性化に重点を置くことにより,45分間の授業構成の工夫が必要であることを痛切に感じた。学習の流れとしては,導入の学習課題の提示から,自力解決,協働解決,まとめ,学習の振り返りと,これまでと大きく変わっていない。しかし,協働解決を充実させようとするあまりに,自力解決や振り返りの時間が十分に確保されてない授業が見られた。ここで,ICTの有効で,効果的活用が大切ではないかと考えられた。自力解決を的確に可視化したり,協働解決に生かしていく考えを分かりやすく提示し,子どもたちの表出方法を手助けしたりするICT活用を工夫や改善をしていく必要があると感じた。また,学習の指導過程における発問や指示など教師の力量も当然ながら大切であること,ICT活用は授業力の向上にもつながっていることを再認識できた。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 3学期に入り,2つの小・中学校,3の教育委員会,教育機関からの学校研修視察があった。その多くが学力向上とICT活用に関する研修視察であり,慌ただしい対応となった。説明対応だけでなく,授業も参観(公開)していただくことで,職員もやや緊張感をもって授業を行っていた。いつでも,誰でも来校者を迎え入れられる学校態勢は,授業だけでなく,整然とした学習環境,元気ではきはきとした子どもたちの姿があることを改めて嬉しく感じた。また,これらを本校の伝統としてこ今後も大切にしていきたいと思った。

 

2年間の実践を終えての感想

 1年次は「思考の錬磨」のために,どのようなICT活用ができるか授業構想から授業実践に至る研究・実践に努めてきた。さらに,2年次は「思考の錬磨」の過程を可視化し,思考の変容をとらえやすく,振り返りやすいものにするために,どのようなICT活用ができるかについて研究,実践してきた。その結果,教師は子どもたちの思考の高まりを実感できるようになってきた。また「学習課題に対して,考えることが楽しくなってきた。」「自分の考えを友達と伝え合い,話し合うことで授業が分かるようになってきた。」という子どもたちの声も聞かれるようになってきた。
しかし,これまでの研究の成果や課題を整理していくなかで,「自分の考えをしっかりと表現できている。」という子どもたちはわずか4割であった。つまり,自分の考えをもっていても,適切な表出がなされないままに協働的学習に取り組むことになり,十分な思考の深化・拡充につながっていないのではないかと考える。

 

次年度以降、今回の成果をどのように展開するのか

  • ICTを活用して,考えを整理・可視化するための指導方法の研究
※ 子どもたちの協働的学習を充実させるには,子ども一人一人に自分の考えをもたせ,それを相手に伝わるように整理することが必要である。さらに,相手に理解してもらうには,頭の中の考えを可視化することが重要である。そこで,子どもの考えを整理・可視化するためにICTを効果的に活用する。ICTを活用して可視化することで,保存ができたり,加筆・修正が簡単にできたりというメリットがある。図や絵,文等の様々な表現様式で,ICTを活用して可視化するために指導方法の研究を行う。
  • 子どもたちが表出する目的をもち,よりよい協働的学習を展開し,考えを深化・拡充していく指導方法の研究
※ 教科や領域等の特性,学年の発達の段階における協働的学習の方法や目的を明確にした研究,実践を重ねることで,よりよい協働的学習ができるようにする。そして,協働的学習で得た知識や技能と,はじめの自分の考えとを比較することで,付加・修正したり,ぶれない考えにしたりして考えの再構築ができるようにする。そこで,協働的学習場面における効果的なICT活用や子どもたちへの助言や支援などの具体的方法を整理していく。
  • ICT活用を通し,考えの高まりを実感できる学習のまとめ・振り返りの位置付けとその指導方法の研究
※ 学習課題に対する自分なりの考えと協働的学習を通して,再構築した考えを比較することで,自分の考えの高まりを実感させるようにしていきたい。そこで,学習過程の中で子どもたちが考えの高まりを実感できるような協働的学習(磨き合い,高め合い)の場やまとめたり,振り返ったりする場を位置付けていく。さらに,それぞれの場を充実させるために,ICTを効果的に活用していく。自力解決後の考えを保存し,協働的学習後に再構築した考えと比較するなど,ICTを有効に活用した指導方法の研究を行う。
  • 電子黒板とパソコンを中心としたデジタル周辺機器の効果的活用法の研究と実践
※ ICT機器の整備や充実を進めるとともに,子どもたちの積極的な活用を設定していくことで,情報活用能力を高めることができるようにする。そこで,子どもたちの実態をよりよく把握したり,これまでのICT活用の実践を整理し,職員相互に実践事例を共有したりすることで,授業における効果的なICT活用が図られ,子どもたちの情報活用能力を高めることができる実践研究を進める。

解説と講評

コメント:宮崎大学 教授 新地辰朗 先生

特別研究指定校として
1年目:「思考の錬磨」を目指したICT活用・授業構想・授業実践,
2年目:「思考の錬磨」の過程の可視化と活用
と,段階的に進めてきた成果を受け,
今後(平成25年度):児童の“考え”の整理・可視化についての指導方法
に関する研究に進むとの方針を興味深く受け取っています。
「自分の考えをしっかりと表現できている」子どもは4割に留まるとの分析結果から,協働的学習を充実させるために,“考え”の適切な表現に重点を置くとされているようです。
これは,2年目に集団的思考の錬磨に着目したからこそ,導かれたものと思います。

 時には直感的で,必ずしも整理されていない状況でみられる“思考の断片”や“思考の種”を,学習課題の解決のために,“まとまった”“考え”にまで導きたいという,先生方の想いだと推察します。タブレット型PCの活用にみられるように,新しいICTを導入することで,従来より,様々な表現や記録を多様に表出・記録できるようになりました。ただし,それらの活用を学習の成果に導くには,別の工夫が必要となります。ICT活用において,頭の中での試行錯誤の段階で表出されるものと,結果として整理された“考え”を分けて,思考の可視化を捉えることができるならば,協働学習におけるICT活用の有効性はさらに高まると思います。

 授業のねらいを達成しようとする中で,見出される工夫や意見を,一層,楽しみにしております。

 
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