実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

酒田市立飛鳥中学校の活動報告/平成23年度1月〜3月
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セールスポイント

<研究主題> 生徒の学習意欲を引き出す「学習評価システム」の構築と授業改善
〜自らの学習状況を捉え、深化・改善のために努力しようとする生徒の育成〜

 新潟大学で後藤康志先生、事務局の桐井さんとの相談会を経て、現在の課題を踏まえた本校の研究の枠組みを下図のように構造的にまとめることができました。後藤先生には、この度も研究の課題や悩みを力強く受け止めていただき、お陰で研究の向かうべき方向や課題が明確となりました。3月20日、お伺いした日は季節外れの猛吹雪となり、非常に見通しの悪い日でしたが、帰りにはすっかりと目の前が明るくなりました。心からお礼申し上げます。

研究のフレームワーク

実践経過

1月上旬
  • 本年度の実践研究記録のまとめ作成
1/10(火)
  • 3学期に向けて(実践記録から学ぶ)
1/13(水)
  • 生徒、職員アンケートの実施
1/20(金)
  • 次年度の学習マップの作成完了(1単元)
1/27(金)
  • 研究推進委員会(研究のまとめ、次年度に向けて)
2/24(金)
  • 研究推進委員会(評価シートの見直し)
3/20(火)
  • 研究相談会(新潟大学)
3/22(木)
  • 研究報告(酒田市教育委員会)
 

成果と課題

 本校の研究は、「自らの学習状況を捉え、深化・改善のために努力する生徒の育成」を期した研究である。また、このサブタイトルとして掲げた姿を“意欲的に学ぶ子どもの姿”として押さえたい。その上で、

  1. 学習評価システム(単元の指導計画、学習マップを活用した授業の改善と充実)の開発
  2. 学習支援システム(BU、PT、FT、ガイダンス)の構築と活用
  3. システムを活用した授業の充実
の三つをめざして、教師自身の指導力を高めながら、スパイラル的に子どもの学ぶ意欲と力を育てていこうとする研究である。

 昨年度は、学習評価システムの改善と活用を図りながら、このシステムを日々の授業改善に活かしていくことを主なテーマとして研究実践を続けてきた。特に、活動評価に重点を置き、「思考・判断」について“学びのよさ”を捉えるために、指導案に評価の規準として表出することを試みた。期待する学びの様相をあらかじめイメージ化することは、指導過程の工夫を前提しており、この試みは授業の充実につながった。

 一方、日々の授業や単元の見通しの中で、捉えようとしてきた生徒の“学びのよさ”とは何か、という疑問に改めて突き当たることとなった。“学びのよさ”として使ってきた言葉のとらえ方に曖昧さが残り、このことが、学習評価システムを授業改善に活かしていく上での“仕組み”の曖昧さにつながってしまっていたことに私達は気づいた。

 そこで、あらためて、捉えようとしてきた生徒の“学びのよさ”を次の二つの面から捉えなおす必要を確認した。

 一つは、教科固有の“学びのよさ”である。上記のように、特に曖昧になりがちな「思考・判断・表現」の評価規準を互いに表出しながら、指導と評価の一体化をめざして実践をつづけてきた。

 二つめとして、教科の壁を越えて育てていきたい力として、「学ぶ姿勢」を位置づけた。開かれた評価システムを生かすことで、教科の壁を越えて共に育てることが可能な学びの姿勢である。育てたいこの「学ぶ姿勢」は「汎用的な力」であり、現時点では「自律的に学ぶ力」と押さえている。

 新年度早々、この「学ぶ姿勢(自律的に学ぶ力)」の評価基準を設定すべく、現在、話しあいをすすめているところである。授業の場面でも、また支える手立ての活用の場面でも、“自律的に学ぶ力”を育てながら、また私達も共に育つ思いをもって実践を積み上げていきたい。後藤先生、桐井さんはじめ事務局の皆様のお陰で、わからないことがはっきりと見えるようになった。

 支援システムの中でも、BUノートは子どもたちにとって、なくてはならないノートとして定着している。生徒の要望も取り入れたり、「テストの花道」の学習計画立案の方法も参考にしたりと、ますます充実した内容になってきている。年度初めのオリエンテーションを充実させて、「自律的な学び」の姿勢を育むべく活用していきたい。

 

次年度への思い(課題、目標など)

 パナソニツク教育財団の特別研究指定をいただいた本校の新任校長として、大きな戸惑
いもありましたが、研究助言者として新潟大学准教授、後藤康志先生のご指導・ご助言をいただき、また事務局の下田さん、桐井さん、そして前任の梅木校長先生のご支援とご指導もいただきながら、私たちの本務である授業の充実に向けて、毎日のように議論し合い、学びあえることはこの上ない幸せなことです。
 本研究のテーマを初めて耳にしたとき、私自身、単元評価を行い、コンピュータで成績を処理して開示しながら、生徒を刺激して意欲を高めていくことをめざしているかのような第一印象がありましたが、実は全くそうではありません。評価システムを整え活用し、中学校の各教科の壁を越えて、自ら学ぶ子ども達を育んでいこうという試みです。また、授業の改善にむけて学びあう職員集団づくりをめざす研究でもあります。子どもの側から学びを見つめ直し、システムに心を添えて子どもたちを育てていこうとする研究なのです。

 今年度も研究主任の梅津玲子教諭の力強いリーダーシップのもと、皆様の参考にもしていただける研究にすべく、実践を積み上げてまいります。

 

解説と講評

コメント:新潟大学 准教授 後藤康志先生

研究主題は「生徒の学習意欲を引き出す『学習評価システム』の構築と授業改善」であるが,「と」というのがくせものである。授業評価システムと授業改善が学習意欲を引き出す,と読むのが自然だろう。しかし,「生徒の学習意欲を引き出す『学習評価システム』」と「授業改善」と読めないこともない。本研究課題が採択された時点で既に授業評価システムがあまりに完成していたために,そのほぼ完成している学習評価システムと授業改善の関係をどう位置づけて発展させていくべきか模索してきた,というのが正直なところかも知れない。

まず,現状これらの構造をどう把握しているかを整理してみる。まず,@学習評価(アセスメント)システムである。ここでのねらいは,学習状況を生徒自身が把握することである。教師が上から管理し統制するという発想ではなく,生徒一人一人に寄り添い、「あなたは今、このような力を付けていますよ」というメッセージを送り、生徒自身が「じゃあ,がんばってみようかな」と方向付けられることを目指している。このための,学び直しのさりげないしかけが A学習支援システムであり,生徒自身が自らの学習を進化・改善するBU,PT,FT,ガイダンスであろう。B授業改善(授業研究)は,こうして積み重ねてきた基礎・基本をベースにしながら「質の高い学び」とは何かを語ることによって,教科の壁を取り払った"目指す生徒像"の共通理解と実現を目指す。昨年来,ずっと筆者の関心であったのが,この「質の高い学び」を教科固有のものとせず,教科に共通する力として共有し,目指していけることができるかであった。BU,PT,FT,ガイダンスにおいては,教科担任がそれぞれの生徒に直接関わるのではなく,幅広い教師がチームとして一人の生徒として関わるため,育成したい生徒像が学校組織として共有できていれば,@学習評価(アセスメント)システムの活用が豊かになり,A学習支援システムにおけるBU,PT,FT,ガイダンスが深く広いものとなっていくはずである。@とAによる下支えが豊かになれば,B授業改善がレベルの高いものになり,よい循環が生まれていくはずである。

課題も少しずつクリアになりつつある。まず@学習評価(アセスメント)システムでは評価シート項目(特に,教科に共通する力を位置づけることができるかどうか)と利用方法の改善が必要ということである。A学習支援システムでは,BU,PT,FT,ガイダンスを有機的に連携するためのしかけを作る必要があろう。B授業研究では,@,Aを踏まえて「質の高い学び」を教科固有のものとせず,教科に共通する力として共有し,自らの授業で語ることではないだろうか。同時に,これらを誰の責任で企画するかという組織作りも求められよう。

これまでみてきたことは,理想的に過ぎる,という指摘はあり得よう。しかし,これまでの飛鳥中学校の取り組みに学ばせて頂く中で「十分射程に入ってきている」という期待がある。

 
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