解説と講評 |
コメント:新潟大学 准教授 後藤康志先生 |
研究主題は「生徒の学習意欲を引き出す『学習評価システム』の構築と授業改善」であるが,「と」というのがくせものである。授業評価システムと授業改善が学習意欲を引き出す,と読むのが自然だろう。しかし,「生徒の学習意欲を引き出す『学習評価システム』」と「授業改善」と読めないこともない。本研究課題が採択された時点で既に授業評価システムがあまりに完成していたために,そのほぼ完成している学習評価システムと授業改善の関係をどう位置づけて発展させていくべきか模索してきた,というのが正直なところかも知れない。 まず,現状これらの構造をどう把握しているかを整理してみる。まず,@学習評価(アセスメント)システムである。ここでのねらいは,学習状況を生徒自身が把握することである。教師が上から管理し統制するという発想ではなく,生徒一人一人に寄り添い、「あなたは今、このような力を付けていますよ」というメッセージを送り、生徒自身が「じゃあ,がんばってみようかな」と方向付けられることを目指している。このための,学び直しのさりげないしかけが A学習支援システムであり,生徒自身が自らの学習を進化・改善するBU,PT,FT,ガイダンスであろう。B授業改善(授業研究)は,こうして積み重ねてきた基礎・基本をベースにしながら「質の高い学び」とは何かを語ることによって,教科の壁を取り払った"目指す生徒像"の共通理解と実現を目指す。昨年来,ずっと筆者の関心であったのが,この「質の高い学び」を教科固有のものとせず,教科に共通する力として共有し,目指していけることができるかであった。BU,PT,FT,ガイダンスにおいては,教科担任がそれぞれの生徒に直接関わるのではなく,幅広い教師がチームとして一人の生徒として関わるため,育成したい生徒像が学校組織として共有できていれば,@学習評価(アセスメント)システムの活用が豊かになり,A学習支援システムにおけるBU,PT,FT,ガイダンスが深く広いものとなっていくはずである。@とAによる下支えが豊かになれば,B授業改善がレベルの高いものになり,よい循環が生まれていくはずである。 課題も少しずつクリアになりつつある。まず@学習評価(アセスメント)システムでは評価シート項目(特に,教科に共通する力を位置づけることができるかどうか)と利用方法の改善が必要ということである。A学習支援システムでは,BU,PT,FT,ガイダンスを有機的に連携するためのしかけを作る必要があろう。B授業研究では,@,Aを踏まえて「質の高い学び」を教科固有のものとせず,教科に共通する力として共有し,自らの授業で語ることではないだろうか。同時に,これらを誰の責任で企画するかという組織作りも求められよう。 これまでみてきたことは,理想的に過ぎる,という指摘はあり得よう。しかし,これまでの飛鳥中学校の取り組みに学ばせて頂く中で「十分射程に入ってきている」という期待がある。 |