自己教育力や自己学習力の育成は,教育者にとっては究極のテーマといってよいだろう。このテーマに取り組んで,飛鳥中学校の研究は公開研究会という形でひとつの通過点に達した。公開研究会は全学級の公開である。国語,数学,社会,英語,保健体育,そしてBUタイムも公開。さらに生徒参加のシンポジウムと,まさに「どこからでも飛鳥中の生徒を見てください」という自信にあふれた企画であった。飛鳥中の研究は,授業の方法やメディア利用を工夫したというものではない。学習評価,学習支援,授業改善をスパイラルで向上させながら,生徒も教師も成長していくという研究である。それが伝わるような配慮,工夫,そしてそれをやり遂げる熱意にあふれた生徒たち,先生方の手作りの公開研究会であった。
一つの通過点であるので,個々の授業についてコメントするのではなく,大きな視点から,次への問いを3つ,問いかけてみたい。
(1)研究の原点に立ち返り求める生徒像を問う
「これまでの卒業生で『自らの学習状況を捉え、深化・改善のために努力する生徒』に最も当てはまる生徒を1人あげると誰ですか?」と問うたとしよう。10人教員がいたとして,ほぼ1人の生徒に収束するものなのか,それとも若干ばらつくものなのか。名前が挙がった生徒のどういう側面が「学習状況を捉え,深化・改善」していると考えたのか。テストで点が取れる子なのか,苦手克服のために学習方法を工夫している子なのか。この問題は,前期中等教育だけで完成するものでなく,高等教育,生涯学習まで見越して語るべきであり,その一部分を担うものであるはずだ。研究の原点を確認する意味でも是非,問うてみたい。
(2)「自らの学習状況を捉える」力をいつ・どうやって育むのか?
「自らの学習状況を捉える」ということをお題目でなく,実際に検討可能なレベルまで具体化したのは飛鳥中の「学習マップ」である。注目したいのは学習マップの自己評価欄である。どうとでも自己評価できてしまう学習マップは何の役にも立たない。学習課題が「〜をまとめよう」で,自己評価が「十分理解した」では本当は困るはずである。「この項目では自己評価出来ません」と異議を申し立てる生徒こそ,本研究で育てたい生徒ではないだろうか。
飛鳥中学校の研究の素晴らしいところは,大まかな目標を示し,方法は個々の先生の工夫に任せているところである。学習マップの自己評価欄やその活用も然りである。専門職たる教師に必要なのは細かい指示なのではなく,自分なりのやり方を工夫し創造的に仕事できる裁量権であろう。アンケートでは学習マップの充実に期待している生徒が多かったことから,今後の展開に期待したい。
(3)ICTを活用して研究をステップアップできないか
じっくり取り組みたい子どもにはじっくりと,理解の早い子どもにはそれに応じて学ぶことや,個々の興味・関心に対応した課題や情報を提供することは,ICTで実現できる部分もある。飛鳥中の教育が生徒と先生方の信頼関係をベースとしており,BUノート/タイムに代表される一人一人の学びに対する温かい眼差しであるからこそ,ICTの本物の使い方のニーズを問うてみたい。
ICT活用の範囲は広い。例えば,フェニックスタイムで発展的な内容に触れたい生徒や,学び直しがしたくとも躊躇してしまう生徒に対して,ICTを活用すれば,個の状態に応じた課題を課すことができよう。学習履歴を生徒自身が見直すことで,自分自身の学びを省察し,何かに気づいて学習の方法を変えていくきっかけとなるかも知れない。こうした教育メディアの活用は学校だけでできるものではなく,研究者や企業関係者のコラボによって成し遂げられるはずであり,是非,声をあげていってほしい。