解説と講評 |
|||||||||
コメント:新潟大学 准教授 後藤康志先生 |
|||||||||
2年間の助成期間の間,何度となく素晴らしい子どもたち,先生方に多くを学ばせていただくことができた。生徒の自律的な学びを支える評価・支援・授業の三位一体のシステムを作ろう,という試みはあまりにも遠い道のりに見えるかも知れない。実際,先生方のご苦労は大変だったと推察する。生徒指導上の問題が起きてから対処するのが「守り」の生徒指導,起きないように未然に手を打っていくのが「攻め」の生徒指導だと聞いたことがある。そして,「守り」の方がはるかに多大なエネルギーを要するとも。生徒一人一人が自らの学習に見通しを持ち,先生方から見守られている実感を持ち,実際に学力も伸びているとすれば,これ以上,強力な生徒指導はあるだろうか。優れた学習指導は同時に素晴らしい生徒指導にもなることを再確認させてくれた飛鳥中の取り組みであった。 以下は,飛鳥中学校での検討会での議論であるが,「最終的にはやはり学力を高めたい」「見通しはもてるが,学力がこれから,という子をどうするか」,「そういえば学力はあるが,見通しはそれほど,という場合もあるな」。一見,よくある話である。下の表で整理すると,クラスのAさん,Bさん,一人一人はどのセルに入るのだろうか。
飛鳥中の研究は,暗黙の内に「見通しが持てれば学力も上がる」,つまり全員がHH型になることを前提とした研究といえる。いわば「見通しが持てなくて,学力はこれから」のLL型をHH型に全ての生徒を導こう,という単線型を前提としていた。研究を経て,実は「学力はあるが,見通しが持てない」というHL型や,「見通しは持てるが学力はこれから」というLH型の子どもを見いだすことができたのである。これは非常に大きな成果だろうと考える。ルートはLL型からHH型だけではないかもしれない。LL型をどうやってLH型にするか。その次にはLH型をどうやってHH型にできるのか。成功例,失敗例を持ち寄って新しい働きかけを工夫し,取り組むことができるのではないか。 提案があり,持続可能な授業研究になっているか? このように考えると,その新しい働きかけは日々の授業や生徒指導の中で行われるはずである。今回,今後の課題で「授業のねらいの一層の吟味と評価規準の検討(学習マップのさらなる活用と工夫)」という一文があることは非常に力強い。その一方で,「では具体的に何をどうしようというのか?」を問いたいのである。確認したいのは,活用,工夫そのものが目的なのではなく,LL型やHL型,LH型をHH型にもっていく,ということが,目的であることだろう。問題は提案があるか,ないかであって,提案がうまく機能したかはその次のステップである。 今年も,飛鳥中学校で長く研究された先生が異動され,新しい先生が加わられたと聞いている。自律的に学ぶ学習者を育てようとする飛鳥中の研究が,新しい先生方にとってこれまで追求されてこられた個人のテーマとどう結びつくのか,気になるところであり,問うて欲しいことである。
|
|||||||||