実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

京都府立乙訓高等学校の活動報告/平成23年度1月〜3月
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セールスポイント

  1. 機器の充実
  2. 今年度当初から財団助成金による機器の整備が進んでいたが、新たに府教育委員会から支援をいただき、液晶テレビ4台、iPad2 10台 AppleTV 2台を購入することができた。
  3. 教室の環境整備
  4. プロジェクターの設置が遅れていた3教室にプロジェクターとスクリーンが設置され、これですべての教室にプロジェクターとスクリーンを配備することが出来た。また、懸案であった遮光についても、教室後部にカーテンが設置され、改善が図られた。
  5. 実践事例集の作成
  6. 実践の振り返りと実践者の増加のため、1年間のICT活用授業の実践事例をまとめた冊子を作成した。
  7. 生徒のプレゼンテーション発表
  8. 本校スポーツ健康科学科2年生による「研究発表会」において、「スポーツ概論」等で学んだ知識を活かし、ICTを使用したレベルの高い発表が行われた。

実践経過

1月 16日(月) 平成23年度文部科学省主催「国内のICT活用好事例の収集・
普及・促進に関する調査研究事業」関東甲信越ブロック研究
発表会視察
 
 
  20日(金) 第3回訪問アドバイス、公開授業、事後研修会の実施
「英語U」「世界史B」(2年生)の授業を公開。財団関係者および小・高・教育委員会関係者10名の参加者があった。
   
     英語U : デジタル教科書を活用 世界史B : 板書とICTを併用
 
  20日(金) 研究チーム打合せE
今年度のまとめと次年度への課題を協議
「ICT活用NEWS Vol.2」発行 
 
2月 7日(火) スポーツ健康科学科2年研究発表会@を公開
財団関係者および小・高・大・教育委員会関係者および保護者あわせて20名の参加者があった。
   
 
  9日(木) スポーツ健康科学科2年研究発表会Aを公開
財団関係者および小・高・大・教育委員会関係者および保護者あわせて10名の参加者があった。
 
  10日(金) 京都教育大学附属桃山小学校(公益財団法人パナソニック教育財団第36回特別研究指定校)教育実践研究発表会視察
 
  22日(水) 
 
訪問アドバイザー、財団と次年度の取組について打合せ

 
3月 12日(月) 「ICT活用NEWS Vol.3」発行
 
  30日(金) 乙訓高校ICT活用授業実践事例集(H23)発行
 

成果と課題

  1. 1月の英語科で取り組まれた公開授業においては、電子教科書を使用した実践が展開され、新学習指導要領の目標とするコミュニケーション能力の養成・向上への視点が示された。
  2. この実践の目標ともなっている「生徒のプレゼンテーション力向上」について、2月に実施したスポーツ健康科学科2年生による研究発表会において、ICTを活用したレベルの高い発表が行われ、目標の達成に向け意義ある取組となった。
  3. ICTを使用した授業実践が、多く見られるようになってきたが、実践者の広がりという点で課題を残している。
  4. 「ICTを活用した授業を、どう学力向上に結びつけるか」という点について、検証を進めることが課題である。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

  1. 1年生の「保健」で、苦心して製作された「簡易実物投影機」が威力を発揮し、従来とは違った形の発表学習となった。また、2年生の「保健」でも、財団の助成金で購入したパソコン8台を使用してグループ学習が行われた。
  2. 地歴公民科の若手教員が、試行錯誤を繰り返しながら「現代社会」におけるパワーポイント教材を作成したこと。
  3. iPadの購入を府教委に働きかけたところ、理解をいただき10台購入することが出来た。将来の全員購入の可能性を探る実践が次年度展開できるようになった。
 

1年間の実践を終えての感想

 機器は整備されていたが、利用するという点で課題が多かった本校にとって、「特別研究指定校」の指定は、ありがたい出来事であった。何よりも教員の意識改革が進み、ICT活用の有用性を実感することにより、授業改善が促進された。毎月他の高校や小中学校の先生方が、公開授業の見学に来られることも大きな刺激となった。生徒のICT活用も、取組が始まったばかりであるが、突破口を開くことができたと感じている。
 また、毎回の訪問アドバイスでいただいた黒上先生の厳しい中にも温かみのあるアドバイスには、取組の改善・修正点が示唆されており、その指摘に応えるための努力は大変であったが、そのおかげで、実践が進んだと痛感している。黒上先生からは、「広げる」という宿題をいただいている。「学校内での実践者を増やす」「実践の内容をふくらませる」「生徒の実践を充実させる」「他校に普及させる」「機器の使い方を工夫する」など様々な分野で「広げる」ということが課題であると思う。
 

次年度への思い

 あっという間に1年が過ぎ、残された期間は1年となったが、今年度行ってきた「月1回の公開授業」は次年度も継続して取り組むことにしている。次年度の課題は、上述したとおりである。機器の整備が一層進んだ今年度であったが、その成果を示すことが出来る実践を更に進めていきたい。
 公開授業の事後研の中で、「高校段階でICT活用が進まない一因に、使用と学力向上の関係が実証されていない点がある。ぜひ、がんばってほしい。」という発言があった。この声に応えることの出来る実践をぜひ進めたいと思う。
 また、生徒の出前授業や、乙訓地域での小中高連携も達成したい課題である。
 

解説と講評

コメント:関西大学 教授 黒上晴夫 先生

何度も書いているが,まずは高等学校におけるICT活用についての組織的な研究が行われていることに敬意を表したい。この中で明確に見えていることは,研究部の役割である。研究部が中心になって,しかもスポーツ健康科学科という特殊なコースにおける授業資料の開発というようなニーズとも相まって,高等学校の授業におけるICTの日常的な活用の方向性をさぐることができていた。

中でも,特に期待したのが,ICT活用による授業の効率化である。それは,従来よりもたくさんの学習内容を授業時間内に詰め込むことではない。おそらくそれは,生徒の情報処理のキャパシティを越えた授業になって,かえって効果がでないことになると思われる。むしろ,効率化して空けた時間にどのような思考活動を入れるか,どのように学習内容を「自分事」にさせるかに腐心することである。

すべての教科でそれができたわけではないが,1年間の実践の中で,いくつかの授業でそれに挑んだ軌跡は,評価に値する。学習内容が多く,常に時間との闘いである高等学校で,自分で考えること,試行錯誤すること,などの一人称の学びを実現する可能性について,共に考えることができたのは収穫である。

年間の授業研究の回数は,とても多い。基本的に毎月行われる。高等学校なのでスタッフが多いということもあるが,授業研究に対してあまり気負わず,完成された授業を見せることよりも,通常のやり方を披露し合って,みんなで改善点を検討する,本当の意味での授業研究ができていた。一部の小学校では,昨今ワークショップ型研修などが導入され,このような方向での学校研究が行われるようになっているが,それをさらに広げる,特に中学校・高等学校にも広げる糸口になればよい。

初年度の授業研究でわかったことは,ICT活用を本時のみで考えることがあまり意味をもたないということである。単元レベル,あるいは,いくつかの授業をセットでみることで,ICT活用の目的が先鋭化する。例えば,2つの授業をセットにして,最初の授業で基本的な語彙について習得させる。おおまかな学習内容についても解説する。この時のICTは,基礎・基本を定着させるフラッシュ型教材のようなものの提示に用いられる。次の授業で,ICTを用いて,既習の語彙を使って,実際の教材を対象に深い学習をする。こちらでは,ICTを用いて問題状況を大きく映して,みんなで書き込んだりしながら考える。このような,習得と活用の授業をセットでとらえることで,ICTのより有効な活用法を検討できると思われる。

すでに書いたが,授業研究の回数とその内容については,十分な成果を上げたと考えている。2年目の課題は,少しでも多く,生徒が考える場面をつくることと,それをうながすプリントの在り方,ノートの取り方,家庭学習の在り方などについて,有機的に組み合わせることである。授業の流し方のモデルと同時に,学習の仕方のモデルもつくっていくのが良いと思う。

 
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