解説と講評 |
コメント:関西大学 教授 黒上晴夫 先生 |
何度も書いているが,まずは高等学校におけるICT活用についての組織的な研究が行われていることに敬意を表したい。この中で明確に見えていることは,研究部の役割である。研究部が中心になって,しかもスポーツ健康科学科という特殊なコースにおける授業資料の開発というようなニーズとも相まって,高等学校の授業におけるICTの日常的な活用の方向性をさぐることができていた。 中でも,特に期待したのが,ICT活用による授業の効率化である。それは,従来よりもたくさんの学習内容を授業時間内に詰め込むことではない。おそらくそれは,生徒の情報処理のキャパシティを越えた授業になって,かえって効果がでないことになると思われる。むしろ,効率化して空けた時間にどのような思考活動を入れるか,どのように学習内容を「自分事」にさせるかに腐心することである。 すべての教科でそれができたわけではないが,1年間の実践の中で,いくつかの授業でそれに挑んだ軌跡は,評価に値する。学習内容が多く,常に時間との闘いである高等学校で,自分で考えること,試行錯誤すること,などの一人称の学びを実現する可能性について,共に考えることができたのは収穫である。 年間の授業研究の回数は,とても多い。基本的に毎月行われる。高等学校なのでスタッフが多いということもあるが,授業研究に対してあまり気負わず,完成された授業を見せることよりも,通常のやり方を披露し合って,みんなで改善点を検討する,本当の意味での授業研究ができていた。一部の小学校では,昨今ワークショップ型研修などが導入され,このような方向での学校研究が行われるようになっているが,それをさらに広げる,特に中学校・高等学校にも広げる糸口になればよい。 初年度の授業研究でわかったことは,ICT活用を本時のみで考えることがあまり意味をもたないということである。単元レベル,あるいは,いくつかの授業をセットでみることで,ICT活用の目的が先鋭化する。例えば,2つの授業をセットにして,最初の授業で基本的な語彙について習得させる。おおまかな学習内容についても解説する。この時のICTは,基礎・基本を定着させるフラッシュ型教材のようなものの提示に用いられる。次の授業で,ICTを用いて,既習の語彙を使って,実際の教材を対象に深い学習をする。こちらでは,ICTを用いて問題状況を大きく映して,みんなで書き込んだりしながら考える。このような,習得と活用の授業をセットでとらえることで,ICTのより有効な活用法を検討できると思われる。 すでに書いたが,授業研究の回数とその内容については,十分な成果を上げたと考えている。2年目の課題は,少しでも多く,生徒が考える場面をつくることと,それをうながすプリントの在り方,ノートの取り方,家庭学習の在り方などについて,有機的に組み合わせることである。授業の流し方のモデルと同時に,学習の仕方のモデルもつくっていくのが良いと思う。 |