パナソニック教育財団は、視聴覚・情報通信メディアを活用して教育の課題改善に取り組む全国の学校に助成を行っています。この実践研究助成の成果報告会が、平成23年8月4日、東京・日暮里のホテルラングウッドで開催されました。 今回の成果報告会では、第35回の特別研究指定校3校、一般助成校67校(対象校71校)が発表を行いました。「特別研究指定校」は特定の課題に2年間じっくり取り組み、「一般助成」は自由なテーマのもと1年間の活動を行いました。また、第36回の特別研究指定校3校による中間報告もご紹介します。 |
|||||||||||
「21世紀型学力につなげる実践研究」 (赤堀侃司白鴎大学教授・パナソニック教育財団常務理事) |
|||||||||||
「ICTの浸透を実感することができました」 (遠山敦子パナソニック教育財団理事長) |
|||||||||||
このページのトップへ | |||||||||||
|
|||||||||||
第36回「一般」の成果報告は、くるま座ディスカッションの方式で行われました。71の助成先で当日参加の67校を地域ごとに17のグループに分け、専門委員の先生を囲みながら、お互いの成果を発表しつつ、意見交換を行ったのです。 |
|||||||||||
■写真や映像を活用 | |||||||||||
北海道グループでは、札幌市立緑丘小学校の山本秀夫先生が、「問題を生み、言語活動を促すICTを活用した授業」について発表しました。ICTのよさを最大限に生かすために、写真や映像を使った授業を展開。メダカのオスとメスの違い、台風がもたらす生活への影響など、生徒が自ら「違い」や「問題」を発見できるよう工夫しました。 |
|||||||||||
■1人に1台iPod | |||||||||||
東北Iグループの岩手県・洋野町立大野第二中学校からは、続石真史先生が、「聞く・話す力を高める英語家庭学習のあり方の研究」を報告しました。生徒一人に一台のiPod nanoを貸与、それに収められた学習素材を家庭で学習すると同時に、授業で発表を行うという活動を行ったのです。専門委員の稲垣忠東北学院大学准教授からは、「家庭学習の成果が授業でうまく展開できている」という意見が寄せられました。また、宮城県鶯沢工業高等学校は高感度地震計の製作と協同観測について発表、東日本大震災の際には、実際にデータを測定することに成功したそうです。 |
|||||||||||
■考える時間 | |||||||||||
関東甲信越海外Iグループは、茨城県・つくば市立竹園東小学校から吉田浩先生が「モバイル機器と電子黒板」「デジタルペンと電子黒板」という組み合せによる授業の確立について発表しました。「モバイル機器は扱いが難しいかと思いましたが、手書き入力ができるので、むしろ低学年が利用しやすい」とのこと。また、授業スタイルを変えることで、子どもたちの「考える時間」を確保することができたそうです。 |
|||||||||||
■校務の効率化 | |||||||||||
東海北陸Uグループは、三重県・亀山市立亀山西小学校の谷本康先生が、ICTによる校務の効率化・高度化について報告しました。校務支援システムを導入し、研修により教職員のスキルを高めることで、教科指導や子どもと関わる時間を増やすことができたそうです。 |
|||||||||||
■環境教育に生かす | |||||||||||
近畿IIIグループでは、兵庫県立飾磨工業高等学校の原信夫先生が、学校周辺を流れる川を活用した環境教育について話しました。プランクトンの観測、ゴミの調査などを行い、ICTを活用した発表会を行いました。今年度にとどまらず、今後も定期的に川の観測を続けていきたいと考えているそうです。 |
|||||||||||
■養護学校で活用 | |||||||||||
中国IIグループ岡山県立東備支援学校AAC活用を考える会からは、浦池聡子先生による、知的障害支援学校におけるAAC(代替・拡大コミュニケーション)活用についてのお話がありました。押すと音声が出る機械を使いこなすことで、生徒のコミュニケーションに対する意欲が増し、いずれ就労につながる可能性もあるとのことです。 |
|||||||||||
■算数科でICT活用 | |||||||||||
九州Iグループの佐賀県・鳥栖市立弥生が丘小学校は、算数科におけるICT活用について語りました。プロジェクタやデジタル教科書、実物投影機などの導入により、生徒が創意工夫する、課題解決型の学習が可能になったそうです。今後は他の教科にも活用の場を広げていきたいとのことでした。 |
|||||||||||
このページのトップへ | |||||||||||
|
|||||||||||
第36回の「特別研究指定校」は、2年間の研究活動を半ばまで終えたところです。1年間の活動の成果につき、3校の指定校が報告を行いました。各校のアドバイザーである赤堀侃司白鴎大学教授、木原俊行大阪教育大学教授、堀田龍也玉川大学教授らも出席、これまでの活動に対する講評を述べるとともに、後半に向けて励ましの言葉を述べました。 |
|||||||||||
それぞれの成果報告と協議内容を紹介します。 テーマT「確かな学力の育成に向けたICTの活用」 練馬区立中村西小学校(東京都) 曽我 泉教諭
京都教育大学附属桃山小学校(京都府) 平島和雄教諭
堀田龍也・玉川大学教授 木原俊行・大阪教育大学教授 赤堀侃司・白鴎大学教授 |
|||||||||||
このページのトップへ | |||||||||||
|
|||||||||||
「特別研究指定校」の制度は、平成20年度の第34回から設けられました。発足2年目にあたる第35回は、<テーマI>「確かな学力の育成に向けたICTの活用」のもとに2校、<テーマII>「人間力の育成のためのカリキュラム開発」のもとに1校が研究を行いました。専門委員の先生方とともに行われたシンポジウムの様子から、2年間の活動の成果をお届けします。 まずは、ジンポジウムに先立ち、文部科学省生涯学習政策局新井参事官よりご挨拶をいただきました。 4月28日に公表された「教育の情報化ビジョン」について触れられ、知識基盤社会である21世紀を生きる子どもたちに必要な力をつけるために、個々に応じた教育や他者とのコミュニケーションを通じて新たな価値を生み出す「協働学習」を推進することが重要であり、そこにはICTの活用が必要であること、また、助成校には成果を学校全体に広げ、児童生徒の能力を最大限に伸長するようなICTの活用をより一層推進して欲しい、と述べられました。 |
|||||||||||
ファシリテーター 報告者 質問者 来賓 |
|||||||||||
このページのトップへ | |||||||||||
|
|||||||||||
シンポジウムの後には、第35回・第36回・第37回の特別研究指定校8校による、ポスターセッションが行われました。ポスターセッションとは、先生方が創意工夫して制作したポスターを前に発表を行い、参加者はさまざまなポスターの前に立ち寄りながら、自由に質問するというものです。いくつかのセッションから、その様子を紹介します。 |
|||||||||||
■先端機器を導入 | |||||||||||
第37回特別研究指定校である鹿児島県鹿児島市立山下小学校は、「子どもたちの思考の錬磨を目的とした多様な教科・領域等におけるICT活用の在り方」をテーマとしています。同校ではすでに、全教室に電子黒板と実物投影機が設置されていて、デジタルペンも導入されています。木田博先生は、「日常の活動でICTを活用し、それを発表し、さらに電子化して蓄積したい」と語っていました。会場では、「デジタルペンはどのように使えばいいのか」など、機器の具体的な性能や使い方への質問も寄せられました。 |
|||||||||||
■多様な教科で活用 | |||||||||||
大阪府守口市立橋波小学校は、2年連続の一般助成を経て、今年特別研究指定校となった学校です。テーマは、「多様な教科・領域における活用型学力の育成〜電子黒板やタブレットPCなどを用いた活用型学習の実践事例の創造〜」。松浦智史先生は、ホワイトボードをオンライン上で共有する「コラボノート」などを紹介。「英語、家庭科、国語、算数など、さまざまな教科でICT活用を実践している。子どもの思考力・表現力を高めるために効果的に使いたい」と語り、当財団の遠山敦子理事長も、興味深く聞き入っていました。 |
|||||||||||
■全教室に実物投影機 | |||||||||||
東京都の練馬区立中村西小学校は、ICTの効果的な活用による「表現する楽しさを味わう子の育成」がテーマ。全教室に実物投影機を配置して、全教員と全生徒で日常的に使う取り組みを行ってきました。曾我泉先生は「興味や関心をつかむ→授業を見通す→授業の理解を深める→思考を視覚化する→繰り返す・習得」といった授業の流れで「1人の100歩より100人の1歩!を合い言葉に、児童の表現力を高める工夫している」と説明していました。12月9日の玉川大学の堀田龍也先生の講演や全学級での公開授業などによる研究発表会への質問も寄せられていました。 |
|||||||||||
■ICTの存在は"触媒" | |||||||||||
京都教育大学附属桃山小学校は「未来の文化を担う人の育成」がテーマです。平島和雄先生は「昨年1年間の活用で3つのことが見えてきた。@ICTは道具であり、子どもの活動を活性化する触媒。A常にICTを活用する必要はない。B個々の実践を全体に広げて行く必要がある」。「多くの教育実習生を受け入れるのも本校の特徴。ICTの活用について授業の実践をベースに話し合い、自由に活用して子どもの反応を確認できることは、実習生にとっても大きな財産になる」と話していました。 |
|||||||||||
このページのトップへ | |||||||||||
|
|||||||||||
成果報告会の最後に、助成を受けた学校の先生方と専門委員の先生方がなごやかに意見交換を行う「情報交流会」が開かれました。「アピールタイム」では、公開授業を控えた学校が、積極的に参加を呼びかけ、それぞれ熱心にICT活用に取り組んでいる様子がうかがわれました。パナソニック教育財団の顧問を務める坂元昴東京未来大学学長のお話もあり、充実した会となりました。 |
|||||||||||
■チームワークを発揮 第35回特別研究指定校 日野市立平山小学校折茂 慎一郎 教諭 |
|||||||||||
私たちの学校はチームワークがよいとよく言われるのですが、今回の研究を通して、さらに教員同士の結びつきが強まりました。あえて役割分担を行うことがなく、全部の教員がすべての活動にかかわっています。文字通り、学校が一丸となって研究に取り組んでいるのです。 今回の研究により、新たな指導法を発見し、具体的な成果を上げることができました。生徒の意欲が高まってきたという実感もあります。これからも私たちの学校の中での研究は続きますが、今回成果があった学力の維持向上に努めつつ、次の目標に向かっていきたいと思います。 |
|||||||||||
■ものごとの本質に迫る力を養う 第36回特別研究指定校 京都教育大学附属桃山小学校平島和雄 教諭 |
|||||||||||
人間力の育成という難しいテーマをあえて選んだのは、本校が昭和40年から『創造性教育の研究』を掲げ、そのままの子どもたちを受け入れる努力を重ねてきたからです。私たちが目指す人間力とは、「ものごとの本質に迫っていく力」のこと。 例えば、5年生のそうぞう(総合的学習)の授業「いのちのつながり」では、京都大学大学院情報学研究科と共同で開発したソフトを活用して、動物の体の特性について学習しました。4、5回動物園に通って集めたデータを分析して、京都市動物園獣医の坂本英房先生と一緒に実物の標本や動物の誕生のVTRなどを用いて、自分たちの分析をさらに検証しました。このようにして、学年に応じた「ものごとの本質に迫っていく力」を培う授業を行っています。 |
|||||||||||
■自信を持って使いこなす 第35回特別研究指定校 横浜市立立野小学校アドバイザー 野中陽一 横浜国立大学准教授 |
|||||||||||
立野小学校では、当初ICT機器の浸透に時間がかかっていたのですが、2年目から先生たちもよく使うようになりました。後半に入り、研究授業を通して「こう使うべきだ」と、自信を持って使いこなすようになっていきました。また、子どもたちも授業中に拡大したいものがあると、「実物投影機で映してほしい」と言ってきたり、見せ方を工夫したりするようになりました。2年前と今では校内をひと回りするだけで、全く違う風景が見られますね。 『人間力の育成』は大きなテーマですから、一朝一夕に人間力が向上するということはなく、小学校6年間を通して『自分づくり』をやっていくわけです。ICT活用は大きな目標の一部だと考え、授業の話し合いでICTを使う、教材作りに使うといった積み重ねが人間力につながると考えたところが、立野小らしいと思います。 |
|||||||||||
-取材・執筆・教育情報ライター 足立恵子(サイクルズ・カンパニー)、中村ゆみ | |||||||||||
このページのトップへ |