小さな学校の実践研究に対する大きな期待
−広島県三次市立三和小学校の取り組みの特長−
広島県三次市立三和小学校は,山間に位置する,小さな学校である。児童数は,150人にも満たない。教員数も,10人をわずかに上回るだけである。しかし,この小さな学校の実践研究は,1年間に何十という学校を訪れる筆者が,今もっとも注目し,そして大きな期待を寄せている取り組みである。その特長は幾重にも及ぶが,代表的なものを挙げるとすれば,次のようになろう。
まず,そのテーマや授業デザインが先進的である。三和小学校が掲げる研究テーマは,「論理的に考え表現する力を育てる授業の創造〜ICTを活用した国語科・算数科の授業改善を通して〜」である。思考力や表現力といった,いわゆる高次な学力は,反復・繰り返しの原理を満たすだけでは育成できない。そのためには,例えば活動のモデル,思考のためのツール,振り返りの機会の提供等,教師の間接的な指導,その精錬が必要とされる。同校の教師たちは,それを実現する道具や環境として,電子情報ボードをはじめとするICTを授業に導入しているが,その姿は,我が国の小学校における授業づくりの近未来のスタンダードを体現していると言えよう。
次いで,校内研修のメニューや活動に工夫が凝らされている。同校の「実践経過」を再度ご覧いただきたい。既に,4月には,いわゆる研究授業が実施されている。これは,先のテーマをしっかりと,しかも具体的に検討したい,そのためには授業研究の回数を増やしたいとする同校のチャレンジ精神の現れである(ちなみに,同校では,すべての教師が1年間に3回以上研究授業を実施する)。
各授業研究会の企画・運営上の工夫にも注目したい。それは,ワークショップ型協議会の実施であり,そのスタイルの多様化である。特に,後者は,秀逸である。例えば,ある授業研究会では参加者が付箋紙に授業を見学して気づいた事項を書き出すスタイルが採用されているが,別の授業研究会ではあらかじめ定められた観点に従って授業を評価する仕組みが導入されている(授業評価シートの活用)。要するに,同校では,参加者間の意見交換を活性化するための技がたくさん蓄積されており,それらが,授業研究会の開催時期や授業者のねらい,参加者の属性等に応じて使い分けられているのである。それによって,同校の授業研究は,マンネリとは対極に位置するものとなっている。
さらに,同校の実践研究におけるオープンマインドには,いつも感心させられる。いわゆる公開研究会は,その規模を変えつつ,1年間に3度も催される(それ以外の授業研究会についても,基本的には学校外からの参加が歓迎されている)。他校の教師,教育行政関係者が授業を見学し,研究発表を聞き,研究協議に参加して,三和小学校の取り組みの外部評価を繰り広げている。それが,同校の取り組みを発展させるための,よき刺激にも,豊かな栄養源にもなっている。
三和小学校の実践研究を参考にすれば,おそらく,なんらかの点において,学校における実践研究の改革,その具体化を図られよう。同校の研究発表会に参加して,あるいは,同校の研究紀要を手にとって,さらには同校のホームページ(
http://www.miyoshi-miwa-e.hiroshima-c.ed.jp/)にアクセスして,その取り組みにふれていただきたい。