#06
パネルディスカッション
テーマ
「ICTを活用したアクティブラーニング」
蓄積を活かし、学校文化を拓く実践に成果を実感
新地辰朗 宮崎大学 教授
今後ますます注目度が高まりそうなアクティブラーニングですが、本日は非常に参考になる実践をご披露いただきました。第42回の助成申請の内容を見ると462件中136件がアクティブラーニングをキーワードにしたものでしたが、採択結果は79件中16件にとどまっています。
京都大学の溝上慎一先生はアクティブラーニングを「一方向的な知識伝達型講義を聴くという受動的学習を乗り越える、あらゆる学習のこと」と定義していますが、別のとらえ方では「教育のパラダイム転換である」ともいわれています。そうすると「学習方法や授業デザインの工夫」が求められるようになる。その際、児童・生徒だけでなく教師のICT活用もテーマとなってきます。発表の中にも、これまでの蓄積を活かし、学校文化を拓いていくようなICTを活用したアクティブラーニングの実践が見られ、着実な成果をあげてきていると思われます。
ここからの時間は、これまでの歩みを振り返り、これから申請する学校の参考にもなるようなご意見を、それぞれの先生方のご経験やお立場からいただければと思います。
生徒をよく見て、生徒が発話する場面を増やす
影戸誠 日本福祉大学 教授
仕事柄、アメリカやオーストラリア、シンガポールなどに行くことがあります。そこから見えてくるのは、日本は各国の成功事例をバックグラウンドとして理論的に踏まえた上で、アクティブラーニングを定義しているということです。その集大成として深い学び、対話的な学び、主体的な学びといったことが大和言葉で定義されているわけです。
教育学者のパウロ・フレイレは「銀行型」すなわち、「預金が少ない人たちは増やすことこそが成功の要だという考え方」をやめようと唱えました。つまり「教えない授業」とは、先生がしゃべるより生徒がきちんと発話している授業のことを指し、そんな授業のほうがいいのではないかというわけです。
生徒のニーズや次の一手、学力や方向性よく見ていないと、アクティブラーニングはデザインできません。生徒は自分の中で了解できていないことを人前で話せませんから、先生は授業の中で生徒が発話する場面をしっかり増やしていけばいいのではないでしょうか。
アクティブラーニングを能動的にする3つの要素
木原俊行 大阪教育大学 教授
汎用的能力の育成とアクティブラーニングは近い関係にあります。アクティブラーニングとはすなわち「能動的である」ということを身体的(体系的)・知的(教材論的)・社会的(学びのパートナー)に繰り広げていく学びであり、それらが三重奏になったとき、ICTはその活動を活性化するのに貢献してくれます。
「身体的に」の例としては教室の外に飛び出して対称な図形を見つける小6の算数の授業、「知的に」の例としてはグループごとに打楽器や主旋律について分析後、それらを総合する小5の音楽の授業、「社会的に」の例としては各自で考えた風の音のオノマトペをグループで共有財産化する小1の国語の授業が挙げられます。
アクティブラーニングの普及には、先生の力量アップが欠かせません。ICT活用を持続的に発展させている先生の熱意を上昇させる要因には環境要因、個人的要因、教師文化要因がありますが、3つ目の要因は日本に特徴的なもので、校内研修などの学び合いの重要性を感じます。
実践の「共通化」を経て「個性化」を図る
寺嶋浩介 大阪教育大学 准教授
ICTを活用したアクティブラーニングにおいては、まず先生方が自分たちの実践を位置づけて一般化する「共通化」を図り、それを拡張する形でオリジナリティーあふれる「個性化」をすることが重要です。段階としては、単一の授業で学んだことについて質的に深い定着を図るところから、問題を解決する主体的な学びへと広げていく。そうなると単元レベルではなく、年間のカリキュラムに落とさなければいけなくなります。そこから、汎用的な能力を学校レベルでどう育てていけるかがポイントです。
ICT活用を位置づける際は教師の単純な提示にとどまらず、児童・生徒のICT活用へシフトさせることで、さらなる教育の可能性が期待できます。また、共通化で気をつけたいのは特定の型にこだわらないこと。そして「対話的な学び」に比べて共通理解しにくい「深い学び」や「主体的な学び」について、どう共有化していくかが重要です。
パナソニック教育財団のホームページには「お役立ち情報」という項目があります。今までの資産を見つめ直し、そこから各校で取り組んでみてもいいかもしれません
プアなICT環境でも情報活用能力を育む工夫を
野中陽一 横浜国立大学 教授
先日出された「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」の最終まとめを見ると、先導的な教育環境はハードルが高いから中間的モデルを提示しないといけない、とトーンダウンしていました。
たしかに現場は必ずしも十分なICTが整備されているわけではなく、地域格差も大きい。とはいえ、私たちの身近な情報はデジタルのほうが圧倒的に多い。だから、これからの情報活用能力の育成はデジタル情報の活用による深い学びをプアなICT環境の中で、どう行うかを考えなければいけません。まずは児童・生徒に資料が入った情報端末を渡すとか、そういうところから始めて、能動的な活動につなげていくのがいいかもしれません。
最近では、教員研修センターの学校教育の情報化指導者養成研修でも1人1台のタブレットを使います。こういう研修を各地域でも実施し、授業につなげていただく。それが授業デザインに、デジタル情報やアクティブラーニングを採り入れることにもつながっていくのだと思います。