岡崎市立葵中学校/平成26年度8~12月 |
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研究課題と成果目標 |
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[研究課題] 学び合い・磨き合いを軸にした思考力・判断力・表現力の育成 [成果目標] 生徒の思考力・判断力・表現力の育成を目指して、書画カメラ,デジタルカメラ,ビデオカメラ,電子黒板などのこれまで整備されている機器について、実践を通して教育的効果を検証する。また、タブレットPCをはじめとした、新しいデジタル機器を利用した授業づくりを進め,ICT機器を用いた授業の実践事例を増やしていく。さらに、生徒のICT活用能力を高め,学習の中で進んで使用できる力を育てる。 |
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本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応 |
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これまで研究を通して分かってきたICTの特性や利点を活かし、生徒同士が学び合い・磨き合う授業作りを進めました。その成果を授業研究協議会で発表しました。 8月 授業研究会の授業作りに向けて、研究推進全体会で方向性を全員で再確認すると共に、岡崎市の教科領域指導員と指導案検討 4日 研究推進全体会
6日 研究推進全体会 豊田先生を迎えて
9月 ICTを使った授業研究を進めました。
3日 PC教室用パソコンの更新 16日 愛知県教育委員会訪問
教科・領域指導員訪問による教科別授業研究会
10月 岡崎市の教科領域指導員に授業を見ていただき、ICTが効果的に取り入れられる ように、授業の検討を重ねました。そして、授業研究協議会でこれまでの成果を 発表しました。 1日 校内授業研究会 豊田先生を迎えて
7日 校内授業研究会 豊田先生を迎えて
22日 授業研究協議会
たくさんのご参加、ご指導ありがとうございました。 ※研究会に際して、岡崎市の教科・領域指導員に訪問して頂き、授業研究を積み重ねました。(数学・英語・家庭科、国語、理科、音楽、技術) 11月 ICTの効果について、授業を通して検証していく 19日 文部科学省より、平成26年度文部科学省「ICTを活用した教育の推進に資する実証事業」実証校として指名され、理科の授業を実践。 ※理科だけでなく、5教科全てで実証授業を進める 12月 ICTの活用に向けて
本校では生徒数分タブレットがあるわけではない。タブレットを初めとするICTを各教科・学年で必要な時に使用するために、年間のICT使用計画をつくり、計画的に使用できるように計画表を作っている |
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裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など) |
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一番うれしいことは、生徒の笑顔 研究授業の準備には、大変時間を掛けました。ICTの研修を通して、ICTの効果を考えながら授業の中にどのように位置づけるか考えます。次に作成した指導案を、教科部会で練り直し、それをさらに岡崎市の教科・領域指導員に直して頂く。なんども指導案を練り直し、ICTスキルも高める。これは、簡単なことではありませんでした。 しかし、このつらさも生徒の笑顔で吹き飛びます。「楽しかった」「分かった」「できるようになった」という感想を見て、研究を進めてよかったと実感しました。 研究会でブレーカーは落ちないのか 授業の内容が決まり、使用するICTが決定した時、一番の心配事は電気量でした。全校で一斉にICTを使った時に、ブレーカーが落ちたら大変です。そこで、研究会の前に一斉テストをしました。
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成果 |
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今後の課題 |
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9月より、岡崎市すべての中学校にタブレットが導入された。岡崎市にはOKネットというネットワークがある。これらを使って自作ソフトの共有や情報交換ができるような方法を創作したい。 |
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アドバイザーコメント |
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和歌山大学 教育学部 附属教育実践総合センター 豊田 充崇 先生 |
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10月22日の研究協議会は、昨年に引き続き22教室同時刻公開授業、その後は12の会場にて各教科別の協議会が実施されました。また、体育館を埋め尽くす企業ブースも1校の研究会規模とは思えないものでした。更に、この日に合わせて葵中学校の実践事例をまとめた書籍も販売され、いずれにおいても充実度の高い会であったといえるでしょう。 まずは、葵中学校は生徒数700名を超える大規模な中学校でありながら、なぜここまでの足並みの揃った継続的な研究や公開授業が実施できたのかを考えてみたいと思います。 様々な好条件が重なっている中でも、大きな要因として3つが挙げられます。 (1) 校長のリーダーシップとそのビジョンを具現化する教員のフォロアーシップ 管理職のリーダーシップは良くいわれることなのですが、葵中学校では、校長先生のビジョンを迅速に実行に移し、成果を出す人的基盤が形成されています(これもリーダーシップの賜物であるといえますが)。 また、授業規律の高さはお墨付きですが、それはタブレット端末を生徒らが活用する差に顕著に現れます。学習の目的を逸脱せず、きっちりと指導内容に沿った活用を進めることにもつながっています。 そして、先生方の考え方が非常に柔軟でありオープンであるといえます。閉鎖的になりがちな中学校現場をかなり風通し良くしようとしているように思えます。特に全校で取り組む「葵タイム」(討論・協議手法を学ぶ時間)は、学年・教科の壁を超えて、成果を挙げているといえます。ICT活用授業については、その研究をしなければならないという義務感ではなくて、「もっといい授業をしたい、生徒たちが分かる・活躍する授業をしたい」という思いからの期待が強いことも受け取れます。 研究者として、抽象的な情意面で語るのはいけないと思うのですが、とにかく葵中学校には一種の清涼感というものが漂います。手入れされた校庭の木々、ゴミの無い廊下や教室、丁寧に扱われた生徒らの作品・掲示物等に加えて、気持ちのいい挨拶や生徒らの会話の声、授業の号令・・・ICT活用研究以前に大事にされていることが印象的だといえます。 今回、葵中学校は、パナソニック教育財団の特別研究指定校としてICT活用授業に関する研究を進めてきたために、この分野での成功を示しましたが、異なる分野・いずれの教育研究においても成果を出すポテンシャルは十分にあるといえるでしょう。 さて、肝心のICT活用授業に関するコメントですが、「教科指導におけるICT活用」として、あまりにバリエーションがあるために総括的に語ることが非常に困難です。いわゆる視聴覚教育の一環としての事例から、電子黒板やデジタル教科書活用授業、タブレット端末グループ一台体制での学び合い授業から、ひとり一台体制でのものまで多種多様です。いずれも、教科指導の改善に結びつくか、従来手法との学習効果の違いはといったところが検討すべきところであり、結果的に教科の目標達成に寄与できたのかがその活用の正否の判断ポイントになるかと思います。 視覚効果によって効率的に指導できた例もあれば、個々の能力差に対応できた例もある一方、準備に時間がかかりすぎるケースや、操作に戸惑って結果的に学習効果を下げてしまった(他の手段を研究した方が効果的であった)という例もあるでしょう。しかし、1ついえることは、すべての事例がその後の授業改善に役立っている(少なくともその判断が下せるようになっている)ことは間違いないでしょう。 葵中学校の現職教育は、「失敗事例もあっていい、次はどうすれば改善できるか考える糧となれば、それは成功事例への第一歩」というようなスタンスを持っています。確かに、授業参観者の意見には手厳しいものがありますが、裏表が無いし、生徒たちにより高いレベルの授業を提供するためにどうすればいいのかということを教科の枠を超えて考えられているといえます。現職教育の最後には、皆さんから、お疲れさまと激励されて終わりますが、こういった雰囲気がやる気にさせる根底になっているのだと思います。 今回、葵中学校の実践事例が書籍化されましたが、これは研究助成1年目の取り組みが中心であり、2年目の2学期以降の取り組みは掲載できていません。2年目では更に熟成された事例や、タブレット端末活用事例も増えておりますので、継続的な事例のまとめ及び情報発信が必要であるといえます。 また、大規模の中学校への機器導入モデルとして、まずはこの設備環境の構築や規模、性能、機器の管理・運営方法などをノウハウとして蓄積し、発信していく必要があると思われます。私もすべてを把握している訳ではありませんが、これだけの実践的な活用がなされていることに比して、機器導入のおけるコストパフォーマンスは相当高いのではないかと考えられます。 最後に、近々文科省から「情報活用能力調査」の結果が公表される見込みがあり、以後なんらかの新しい教育政策が動くと仮定し、重ね合わせて葵中学校の更なる展望を述べるとすれば、やはり「系統的な情報活用能力のカリキュラム」の構築とその能力評価の共通観点等の策定であるといえます。この件については、次回の最終回でまた述べたいと思います。 |
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